2020 年 32 巻 4 号 p. 153-158
がん治療におけるプレシジョンメディスンとは,現状では患者の層別化により個別化と治療の適正化を行うことである。病理診断以上に多くの臨床情報が必要であり,精密診断の比重は大きい。精密診断の方法としてNGSを活用したオンコパネルによる遺伝子診断が実用化され保険収載されるに至っているが,標的遺伝子に対する治療薬の不在,適応外使用の問題などにより,適切な治療にたどり着くことは稀であり,治療成績の向上に寄与するには至っていないのが現状である。もう一つの問題は,診断に用いられる組織は多くが初発の原発巣由来であることである。癌組織は多様な細胞集団から形成されており,可塑性をもち,治療の時間軸によって大きく変化しており,現状ではこれを診断することはできない。
われわれは診断における時間軸を重視し,口腔癌の発症前から発癌,切除後の再発転移をリアルタイムに精密に診断し,治療を開始することをコンセプトに,非侵襲的精密診断法の開発を行っている。本シンポジウムでは患者の時間軸を重視した 1.うがい液による口腔潜在的悪性疾患(OPMDs)および口腔癌の超早期診断 2.血清miRNAをバイオマーカーとする口腔癌のリアルタイムモニタリング 3.口腔癌循環癌細胞の分離によるリアルタイムシングルセル解析による口腔癌精密診断と今後の可能性について報告する。