抄録
抗血小板薬は脳梗塞,心筋梗塞,末梢動脈血栓症など動脈血栓症の治療や予防に使用されている。外科手術時に抗血小板薬を血栓・塞栓症の発症を考慮し継続するのか,大出血のリスクのため中止するかについては,明確な基準はない。今回,抗血小板薬内服継続下での頸部郭清術について臨床的検討を行ったので報告する。
対象は2010年7月から2020年12月までに口腔癌原発手術後に頸部リンパ節後発転移を認め,当科にて片側全頸部郭清術を単独で施行した症例の中で,条件を満たした23例とした。対象を抗血小板薬内服群と非内服群に分けて後方視的に比較検討した。内服群は6例,非内服群は17例であった。術中出血量,術後ドレーン量,術後Hb,RBC変化率は両群間で有意差はなかった。両群において術後出血や術後出血性合併症,血栓性合併症の発症はなかった。
本研究において抗血小板薬内服継続下でも頸部郭清術を施行できることが示された。しかしながら,頸部郭清術における術後出血は気道閉塞により生命の危険を招く可能性があり,抗血小板薬を継続する場合は,術中の慎重な止血操作や術後の厳重な管理が必須であると考えられた。また,本研究は症例数が少ないため今後は多施設共同で症例を蓄積し,検討を行う必要があると考えられた。