日本口腔腫瘍学会誌
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33 巻, 4 号
選択された号の論文の6件中1~6を表示しています
総説
  • ~臨床研究法施行の背景~
    筧 康正, 永井 洋士, 長谷川 巧実, 明石 昌也
    2021 年 33 巻 4 号 p. 159-163
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/22
    ジャーナル フリー
    わが国における臨床研究環境は近年著しく変化している。なかでも2018年4月1日に臨床研究法が施行されたことは大きな転換点といえる。その背景として2013年から2014年にかけて,ディオバン事件を代表とする臨床研究に関する不適切な事案が複数生じたことが挙げられる。それらの臨床研究では,複数の大学機関が関連していたデータ操作・不透明な奨学寄附金を通じた研究者と製薬企業との関係性が大きくクローズアップされ,社会問題化した。これらの研究不正に鑑みて,厚労省は,臨床研究の信頼の回復のためには法規制が必要との結論に達し,倫理指針の改定・厳格化を経て臨床研究法施行の運びとなった。
    臨床研究に関わる全てのものにとって本法の要請を理解し,適切に対応することが求められている一方で,本法を理解するための文書類の多さや手続きの煩雑さなど,研究者の負担が大きく増えたことから,臨床試験の停滞や委縮を招いている。
    本法の大きな特徴として,研究責任医師に臨床研究の責任が集約されたこと,研究者は厚労省が認定した認定臨床研究審査委員会を通して試験計画を厚労省に届けること,利益相反の流れが詳細に定められたことなどが挙げられる。
    本報告では臨床研究倫理における臨床研究法成立までの臨床研究環境の変化について述べたうえで,臨床研究法について概説する。
  • 栗田 浩
    2021 年 33 巻 4 号 p. 165-170
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/22
    ジャーナル フリー
    臨床研究は,日常の医療現場における「疑問」から始まる。その疑問を解決・検証するために,臨床研究が行われる。本稿では,臨床研究の概要と実践について述べた。医師や歯科医師をはじめ医療に携わるものは,「科学者」である。科学を行う者が真の医療者である。科学には机上の勉強も大切であるが,実践がなければ医学研究者とは言えない。知識を得て,それを実践し,臨床で多くの経験をする必要がある。その経験の中から,問題点を見つけ出し,それを解決しようとする。このプロセスが「臨床研究」である。その結果は一般化され,医学に大きく貢献することになる。文献をよく読み,臨床をよく行い,よく観察し気付き,深く考え,臨床研究を行おう。
原著
  • 吉田 将律, 吉川 博政, 田尻 祐大, 永井 清志
    2021 年 33 巻 4 号 p. 171-177
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/22
    ジャーナル フリー
    抗血小板薬は脳梗塞,心筋梗塞,末梢動脈血栓症など動脈血栓症の治療や予防に使用されている。外科手術時に抗血小板薬を血栓・塞栓症の発症を考慮し継続するのか,大出血のリスクのため中止するかについては,明確な基準はない。今回,抗血小板薬内服継続下での頸部郭清術について臨床的検討を行ったので報告する。
    対象は2010年7月から2020年12月までに口腔癌原発手術後に頸部リンパ節後発転移を認め,当科にて片側全頸部郭清術を単独で施行した症例の中で,条件を満たした23例とした。対象を抗血小板薬内服群と非内服群に分けて後方視的に比較検討した。内服群は6例,非内服群は17例であった。術中出血量,術後ドレーン量,術後Hb,RBC変化率は両群間で有意差はなかった。両群において術後出血や術後出血性合併症,血栓性合併症の発症はなかった。
    本研究において抗血小板薬内服継続下でも頸部郭清術を施行できることが示された。しかしながら,頸部郭清術における術後出血は気道閉塞により生命の危険を招く可能性があり,抗血小板薬を継続する場合は,術中の慎重な止血操作や術後の厳重な管理が必須であると考えられた。また,本研究は症例数が少ないため今後は多施設共同で症例を蓄積し,検討を行う必要があると考えられた。
症例報告
  • 金子 哲治, 北畠 健裕, 山﨑 森里生, 菅野 千敬, 遠藤 学, 長谷川 博
    2021 年 33 巻 4 号 p. 179-185
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/22
    ジャーナル フリー
    von Willebrand病(von Willebrand disease:vWD)はvW因子(von Willebrand factor:vWF)の量的減少または質的異常に基づく血小板機能低下症であり,手術時の止血困難が生じうる疾患である。われわれは,vWDを有する下顎歯肉癌患者に対して周術期の血液凝固因子補充療法により再建手術時の止血を安全に行えた1例を経験したので報告する。患者は63歳男性で,肺癌の既往があり,その治療時にvWDと診断された。当科初診時,vWFリストセチンコファクター活性(vVF:RCo)6%未満,vWF抗原量(vWF:Ag)26%,第Ⅷ因子活性(FⅧ:C) 75.1%と低下していた。右側下顎歯肉扁平上皮癌(T4bN2bM0)に対して,術前化学療法後に再建手術を計画し,手術2日前から乾燥濃縮人血液凝固第Ⅷ因子製剤2,000単位/bodyで投与を開始した。手術前日にはvWF:RCo 158%,vWF:Ag 275%,FⅧ:C 110%に上昇した。頸部郭清術,下顎骨区域切除術,チタンプレートと腹直筋皮弁による再建術を行ったが,術中の止血は問題なく,術後の出血もなかった。
  • 中村 守厳, 松尾 勝久, 喜久田 翔伍, 篠﨑 勝美, 轟 圭太, 関 直子, 楠川 仁悟
    2021 年 33 巻 4 号 p. 187-193
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/22
    ジャーナル フリー
    肺の癌性リンパ管症は,リンパ管に癌細胞が浸潤して多発性の塞栓をきたした状態で,臨床的に極めて予後不良である。肺の癌性リンパ管症の原発巣は乳癌・胃癌・肺癌が多い。口腔扁平上皮癌の遠隔転移や生命予後には,頸部リンパ節転移の転移個数,節外浸潤,Level Ⅳ・Ⅴへの転移が関与すると報告されている。今回われわれは,舌癌の多発性頸部リンパ節転移治療後に肺の癌性リンパ管症を発症した1例を経験したので,その概要を報告する。症例は72歳,男性。舌扁平上皮癌(T2N0M0)に対して舌部分切除術が施行された後,4か月で多発性の頸部リンパ節転移が発症した。舌扁平上皮癌(rT0N3bM0)の診断にて,全身麻酔下に根治的全頸部郭清術を施行した。病理組織検査では,郭清組織内に47個の転移リンパ節を認め,術後補助療法として同時化学放射線療法を施行した。治療終了後6日目,喀痰増加や呼吸苦の症状を訴えられ,胸部CTにて両側肺野に小葉間隔壁肥厚,胸水と縦隔リンパ節の腫大を認めた。胸水穿刺細胞診と胸部CTの結果より,肺の癌性リンパ管症と診断した。呼吸器症状が生じてから16日後に,呼吸不全の進行にて永眠された。肺の癌性リンパ管症は,リンパ管に癌細胞が浸潤して多発性の塞栓をきたした状態で,臨床的に極めて予後不良である。肺の癌性リンパ管症の原発巣は乳癌・胃癌・肺癌が多い。口腔扁平上皮癌の遠隔転移や生命予後には,頸部リンパ節転移の転移個数,節外浸潤,Level Ⅳ・Ⅴへの転移が関与すると報告されている。今回われわれは,舌癌の多発性頸部リンパ節転移治療後に肺の癌性リンパ管症を発症した1例を経験したので,その概要を報告する。症例は72歳,男性。舌扁平上皮癌(T2N0M0)に対して舌部分切除術が施行された後,4か月で多発性の頸部リンパ節転移が発症した。舌扁平上皮癌(rT0N3bM0)の診断にて,全身麻酔下に根治的全頸部郭清術を施行した。病理組織検査では,郭清組織内に47個の転移リンパ節を認め,術後補助療法として同時化学放射線療法を施行した。治療終了後6日目,喀痰増加や呼吸苦の症状を訴えられ,胸部CTにて両側肺野に小葉間隔壁肥厚,胸水と縦隔リンパ節の腫大を認めた。胸水穿刺細胞診と胸部CTの結果より,肺の癌性リンパ管症と診断した。呼吸器症状が生じてから16日後に,呼吸不全の進行にて永眠された。
  • 八木原 一博, 原 浩樹, 石井 純一, 炭野 淳, 桂野 美貴, 柴田 真里, 金 裕純, 原口 美穂子, 石川 文隆
    2021 年 33 巻 4 号 p. 195-202
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/22
    ジャーナル フリー
    舌癌の頸部・遠隔転移症例に対してニボルマブが完全奏効を示し,2年間投与後に定期経過観察に移行した症例を経験したので,その概要を報告する。
    患者は70歳の男性で,T3N2bM0の進行舌扁平上皮癌の診断下,再建を含む手術を施行した。術後に頸部再発が確認された。そのため,シスプラチン併用化学放射線同時併用療法を完遂したが,PET/CTにて頸部・傍気管LN転移を確認したため,ニボルマブを適応した。本薬剤により腫瘍は緩徐に縮小し,投与後1年の効果判定では完全奏効と診断された。本薬剤を2年間投与し,終了とした。その後1年4か月,明らかな再発転移は認められない。 
    ニボルマブは高価な薬剤であるが,投与期間の基準がない。本薬剤はより慎重な治療効果判定を担保しながら,投与期間に関する規定作りが待たれる。
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