わが国における臨床研究環境は近年著しく変化している。なかでも2018年4月1日に臨床研究法が施行されたことは大きな転換点といえる。その背景として2013年から2014年にかけて,ディオバン事件を代表とする臨床研究に関する不適切な事案が複数生じたことが挙げられる。それらの臨床研究では,複数の大学機関が関連していたデータ操作・不透明な奨学寄附金を通じた研究者と製薬企業との関係性が大きくクローズアップされ,社会問題化した。これらの研究不正に鑑みて,厚労省は,臨床研究の信頼の回復のためには法規制が必要との結論に達し,倫理指針の改定・厳格化を経て臨床研究法施行の運びとなった。
臨床研究に関わる全てのものにとって本法の要請を理解し,適切に対応することが求められている一方で,本法を理解するための文書類の多さや手続きの煩雑さなど,研究者の負担が大きく増えたことから,臨床試験の停滞や委縮を招いている。
本法の大きな特徴として,研究責任医師に臨床研究の責任が集約されたこと,研究者は厚労省が認定した認定臨床研究審査委員会を通して試験計画を厚労省に届けること,利益相反の流れが詳細に定められたことなどが挙げられる。
本報告では臨床研究倫理における臨床研究法成立までの臨床研究環境の変化について述べたうえで,臨床研究法について概説する。
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