抄録
腺様囊胞癌は,全唾液腺腫瘍の約10%を占め,小唾液腺,特に口蓋に多く発生する。緩徐な増大を示す一方,神経周囲浸潤の傾向が強く,局所再発や遠隔転移を生じやすいため長期予後は不良である。舌に発生する小唾液腺由来腺様囊胞癌は極めてまれである。今回われわれは,前舌腺原発と考えられた腺様囊胞癌に対して原発巣切除を行い,術後約8年で対側頸部リンパ節転移を認めた1例を経験したので,その概要を報告する。患者は79歳,男性。右側舌尖部から舌下面にかけて,弾性硬で潰瘍を伴う腫瘤を認めた。生検で腺様囊胞癌と診断し,十分な安全域を設けて,舌下腺,口底組織,オトガイ舌筋の一部を含め切除し,腹部からの分層植皮を行った。右側舌神経は顎下神経節分岐部まで追及し,周囲組織を含めて切除した。病理組織学的所見は篩状型で神経浸潤を認めたが,切除断端は陰性であった。術後7年10か月で対側の左顎下リンパ節転移を認めたが,原発巣部に再発所見は認めなかった。局所制御を目的に左側肩甲舌骨筋上頸部郭清術を施行した。現在,頸部郭清術後1年7か月で再発および遠隔転移を認めていないが,晩期再発・転移の可能性を踏まえ,引き続き長期にわたり慎重な経過観察が必要である。