抄録
顎骨の放射線骨壊死は, その解剖学的特質により, 主に下顎に発生し, 上顎は稀である。今回, われわれは, 進行上顎洞癌の治療終了より2年2か月後に, 上顎放射線骨壊死を生じた症例を経験したので, その治療経過の概要を報告する。
症例は, 74歳女性。1993年3月から5月にかけ, 左上顎洞癌 (T3N0M0) にて5-FU2, 500mg動注併用下に50Gy照射後, 腫瘍減量・開洞手術, 術後照射として高線量率イリジウム治療による腔内照射, 総量24Gyの治療を受けた。以上の治療により, 腫瘍は良好に制御されているが, 1995年6月26日左眼窩下部に膿瘍形成を認めたため, その治療目的に同年7月10日当科受診となった。
膿瘍切開後, 外来通院にて洗浄・消炎処置を繰り返したところ, 腐骨分離傾向を認め, 1995年10月17日左眼窩底の腐骨 (24×15mm) が分離した。その後, 炎症は消退したが, 左眼窩下部に18×8mmの上顎洞と交通する皮膚全層欠損を生じた。この欠損に対して, 欠損下部に三角形の皮弁を作成し, これをhinge flapとし, これに頬部の外側より得た皮弁で創閉鎖を行った。
術後経過は良好で, 審美的に満足の得られる結果であった。