抄録
両側上顎歯肉に発生した転移性肝細胞癌の1例を経験したので, その臨床経過の概要について報告した。
患者は, 右上顎歯肉からの出血を主訴に, 博慈会記念総合病院を受診した91歳男性で, 末期の肝癌患者であった。同院耳鼻科にて, 歯肉からの出血に対し, 電気メスで止血を試みるも止血できず, 歯科口腔外科に紹介となった。右上顎臼歯部口蓋側の部分床義歯床縁相当部歯肉に, 暗赤色, 弾性軟の腫瘤を認め, 同部より出血を認めた。また, 匿頬側歯肉に血管腫性エプーリスを思わせる腫瘤を認めた。それぞれの病変に対して, 局所止血を目的に全切除を行い, 病理組織学的検索を行った。その結果, 両者とも中分化型肝細胞癌の病理組織学的診断を得, 肝細胞癌の上顎歯肉転移と診断した。