1992 年 4 巻 1 号 p. 81-87
口腔領域の血管腫は, 口唇や舌, 頬部に好発し, まれに咬筋にも発生するが, 深部咬筋内での発生は非常にまれである。この論文は咬筋深部に発生した血管腫の一例を報告するとともに, 文献的考察を述べたものである。
患者は12歳の女性で, 右側耳下腺部の腫脹を主訴として当科を受診した。超音波断層検査では, 表面平滑, 直径3cm, 円形の腫瘤が認められた。開口障害があり, 開口時の切端間距離は25mmであった。CTおよびMRI検査で, 頬骨弓直下の咬筋深部に軟組織塊の存在が明らかとなった。
耳前部切開から腫瘍を一塊として切除した。病理組織学的には海綿状血管腫であった。術後, 顔貌は対称となり, 顔面神経の機能は完全に保存され, 開口距離は44mmに増加した。
本邦において, 過去20年間 (1970-1990年) に報告された咬筋内血管腫は14編, 19症例であった。