抄録
1978年から1992年までの過去15年間に当科で治療を行った上顎歯肉扁平上皮癌患者は14例であった。そのうち, 腫瘍の発生部位, 義歯との位置的関係および義歯の装用状況の観点から, 癌発症に義歯の関与が示唆された7症例を対象とし, これらの臨床病理学的検討を行った。
対象患者は男性2例, 女性5例であり男女比は1: 2.5であった。67歳から94歳にわたり平均年齢は79歳であり7例中6例が70歳以上であった。腫瘍は片側の臼歯部, 口蓋部, 上顎結節の義歯床下より発生した。無痛性の主訴が多く, 初診時すでに進展していた症例も多かった。しかし, すべて外向性発育を呈し, 所属リンパ節転移や遠隔転移は認められなかった。また組織学的には低悪性度と考えられる分化型扁平上皮癌であった。義歯の装用期間は長年にわたり, 夜間就寝時もほとんどはずすことなく装用した。これらより, 長期にわたる義歯の不適切な使用が発癌に関与していることが示唆された。