抄録
エナメル上皮腫は通常, 下顎骨の大臼歯部または小臼歯部, あるいは下顎枝部に発現し, 下顎前歯部に生じることは稀である。
われわれは, 33歳男性の3根尖部に限局してみられたエナメル上皮腫の1例を経験したので報告する。患者は生活歯である3根尖部に原因不明のX線透過性病変があるのを近くの歯科で偶然発見され, 精査を目的に当院に紹介された。X線検査では, 3根尖部に辺縁が不規則で内部は蜂巣状を呈するX線透過性増強像を認めたため, 歯原性腫瘍を疑い摘出術を行った。病理組織学的には, 胞巣中心部の扁平上皮化生を特徴とする棘細胞腫型エナメル上皮腫 (WHO分類) であった。これらの所見から, 本腫瘍はMalassez上皮遺残より発生した初期のエナメル上皮腫であることが示唆された。現在, 術後7か月を経過したが再発等の異常所見は認めていない。