抄録
Down症候群(DS)に伴う遺伝子異常は研究の途上であり, Alzheimer病を基本とした神経系細胞の研究に比べ, CRELD1やGATA4関連心奇形, 肺動脈の組織変化に関連する経路の研究はやや乏しい感がある. 基本的には, おおむね房室中隔欠損(AVSD)に伴う肺動脈性肺高血圧(pulmonary arterial hypertension:PAH)のリスクに関してはコンセンサスが得られているが, 臨床医として適切な検査時期, 多彩なPAH増悪因子, そして治療介入時期の判断を間違わなければ, 非DSと同程度の手術成績が得られることに関しては全く同感である. 特に呼吸器系の低形成は肺気腫に類似した組織像であり, 肺血管壁の構築もストレスに対して肥厚しやすく, 二次性または合併症PAHへの進展が懸念される. 発見後150年, 染色体異常確認後50年が過ぎたこの症候群についてはさらなる研究成果の臨床への応用が, DS患者に多くの光を与えるであろう.