抄録
患児は8歳10か月の女児で,上顎正中埋伏過剰歯の診断と処置依頼を主訴に来院した。エックス線写真所見では,上顎右側中切歯は埋伏しており,上顎左側中切歯の口蓋側と埋伏上顎右側中切歯の鼻側に2歯の埋伏過剰歯が確認された。
この症例に対してまず,上顎右側中切歯の保存を前提として左側過剰歯を摘出し,その摘出窩から右側過剰歯を明示し,摘出した。その後,上顎固定装置やセクショナルアーチにて牽引誘導を行い,上顎右側中切歯を歯列内に大まかに排列した。また,1年後の転居が決定したため,この期間でマルチブラケットを使用し,良好な歯列咬合状態を達成した。牽引した中切歯や上下顎第3 大臼歯の長期管理を含め永久歯列完成期を見据えた管理を行いたかったが,患児の転居のため,当科への通院が不可能となり,転居先の小児歯科専門医へ紹介することになった。
本症例は逆生埋伏していた中切歯の牽引処置自体も難易度の高いものであったが,さらに,中切歯の根尖部を損傷することなく,歯髄の生活状態を保ちながら牽引誘導するためには,その深部にある過剰歯をどのような手順と方法で安全に摘出すべきか,慎重な検討と熟達した治療技術が要求された。
結果として,当科での管理期間内に患児と保護者に満足のいく良好な歯列咬合状態を達成できたが,これと同時に,総合的な口腔育成を進める上で,我々自身も小児歯科医としての成長を実感できた症例であった。