2016 年 54 巻 4 号 p. 433-442
本研究は積分値移動曲線法を用いて,口唇口蓋裂(CLP)児における口唇形成術前後の口腔周囲筋活動の変化と筋協調パターンの特徴について検討を行ったものである。 被検児はF 大学病院に通院中の片側性完全唇顎口蓋裂児10 名である。計測は口唇形成術前,術後,術後 3 か月の計3 回行い,吸啜運動時の口腔周囲筋活動を計測した。口腔周囲筋活動は左右側頭筋(LR, TM)と咬筋(LR, MM),唇裂とは反対側(健側)の口輪筋(OM),舌骨上筋群(SM)の6 筋に双極表面銀電極を貼付し記録し,TM とMM は健側のみを分析対象とした。また,被検児と同様の有弁型人工乳首を使用している4 か月の健常乳児8 名と比較検討を行った。 その結果,ピーク時筋活動量については,OM は術前と比較し,術後と3 か月後で有意に増大していた(p<0.05)。SM は3 群とも健常乳児と比較して有意に小さい値を示した(p<0.05)。ピーク時間割合については,SM は1 吸啜サイクルの後半にピークがある健常乳児に対し,CLP 児は3 群とも中盤付近に位置していた(p<0.05)。CLP 児のSM の積分値移動曲線は起伏が不明瞭であり,口腔周囲筋協調パターンは健常乳児と異なっていた。 以上より,CLP 児は口唇形成後にOM の活動が活発になるのに対し,SM は術後も活動は小さいままであり,ピークが不明瞭であったことから,健常乳児とは異なった筋協調パターンで吸啜運動を行っていることが示唆された。