歯科診療における安全かつ快適な治療の提供は歯科医療従事者の重要な使命である。歯科恐怖は小児期に与えられた疼痛・騒音などの負の経験が引き金となることが報告されていることから,とりわけ小児歯科診療においては,患児のストレスを把握し,適切な行動調整を含めた治療環境を提供することが重要となる。今回著者らは,チェアサイドにてリアルタイムに心理的ストレスをモニタリングできる方法の開発を目的として,歯科診療中の小児患者の自律神経活動および脳活動の記録解析を行い,それらの指標が小児の内的ストレスや情動の把握に有用であるかを検討した。 当科を受診した小児11 名を対象とし,コンポジットレジン修復治療中の,自律神経活動と脳波の各周波数成分の分析を行い,各治療内容における変動を安静時と比較検討した。交感神経活動では,浸潤麻酔,ラバーダム防湿時に有意な上昇が認められ,副交感神経活動では,診査,表面麻酔,浸潤麻酔,ラバーダム防湿,タービン・マイクロモーターコントラアングル型(以下コントラと略)による切削時に有意な低下が認められた。この自律神経活動の変動から,浸潤麻酔,ラバーダム防湿で特にストレスが高まることが示された。一方,脳波では,コントラによる切削中にθ波の低下傾向,表面麻酔と浸潤麻酔施行時にβ波の上昇傾向が認められ,麻酔時およびコントラ切削時に緊張感や不安感が高まることが示唆された。本結果から,自律神経活動および脳波をリアルタイムに解析,モニターすることにより,歯科治療中の小児患者の情動を客観的に把握可能であることが示された。 今後これらの指標を組み込んだリアルタイム診療モニタリングシステムを構築することにより,小児歯科医療の質向上への寄与が期待される。