近年,小児がんの治療法が改善され,長期生存するがん治療経験者は増加している。小児がんの治療には,化学療法,放射線療法,幹細胞移植などがあり,これらの治療法を組み合わせることでさらに治癒率が向上している。その一方で,小児がん治療経験者の晩期合併症が注目されるようになってきた。小児がん治療の口腔領域の晩期合併症としては,石灰化障害,矮小歯,欠如歯,歯根の短根化などが報告されている。これらは放射線療法のみならず化学療法によっても生じることがある。しかし化学療法は副作用を抑制するために多剤併用療法が用いられており,歯の形成に対して個々の薬剤の影響についてはいまだ不明なことも多い。本研究では,抗腫瘍薬が歯の形成におよぼす影響を調べるために,歯の形成期のマウスにシクロホスファミドを投与し歯根形成を観察し検討した。まず歯の形態的変化を3D立体構築画像を用いて分析した結果,歯根形成時のシクロホスファミド投与は歯根の伸長を障害し,根尖孔が早期閉鎖する傾向を示した。また,組織学的検索でシクロホスファミドはヘルトウィッヒ上皮鞘の形成を阻害しており,これが歯根伸長の障害を引き起こす可能性が示唆された。今後も小児がん経験者は増加すると予想される。歯の形成不全のリスクを持つ小児がん経験者に対して,継続した歯科健診などのフォローアップとともに口腔疾患を予防するための口腔ケアプログラムの開発が望まれる。