小児歯科学雑誌
Online ISSN : 2186-5078
Print ISSN : 0583-1199
ISSN-L : 0583-1199
55 巻, 3 号
選択された号の論文の9件中1~9を表示しています
総説
  • 小児歯科学雑誌の掲載報告と診療ガイドライン
    中村 由紀, 齊藤 一誠, 倉重 圭史, 鈴木 淳司, 星野 倫範, 島村 和宏, 飯沼 光生, 早﨑 治明, 齊藤 正人
    2017 年 55 巻 3 号 p. 331-344
    発行日: 2017/06/25
    公開日: 2018/07/23
    ジャーナル フリー

    小児歯科臨床において,乳歯および幼若永久歯の外傷を主訴として来院する患者の割合が近年増加しているという報告がある。歯の外傷については,日本小児歯科学会発足当初から頻繁に研究課題としてとりあげられ,これまでに小児歯科学会雑誌に掲載された学会発表抄録は270編,総説・論文等は57編である。国外では,2012年にThe International Association of Dental Traumatology(IADT)が三編からなる診療ガイドラインを作成し,刊行誌であるDental Traumatologyに掲載した。これを受け2013年に,American Acad­ emy of Pediatric Dentistry(AAPD)は,その刊行誌であるPediatric DentistryにIADTの診療ガイドラインをAAPDの歯の診療ガイドラインとしてそのまま掲載した。そこで本稿では,日本小児歯科学会における歯の外傷に関するこれまでの報告等について集成し,診療ガイドライン作成の背景や意義を踏まえて検討するとともに,今後の方向性について考察を行った。

  • 抗腫瘍薬によるマウス臼歯の歯根形成抑制
    河上 智美
    2017 年 55 巻 3 号 p. 345-351
    発行日: 2017/06/25
    公開日: 2018/07/23
    ジャーナル フリー

    近年,小児がんの治療法が改善され,長期生存するがん治療経験者は増加している。小児がんの治療には,化学療法,放射線療法,幹細胞移植などがあり,これらの治療法を組み合わせることでさらに治癒率が向上している。その一方で,小児がん治療経験者の晩期合併症が注目されるようになってきた。小児がん治療の口腔領域の晩期合併症としては,石灰化障害,矮小歯,欠如歯,歯根の短根化などが報告されている。これらは放射線療法のみならず化学療法によっても生じることがある。しかし化学療法は副作用を抑制するために多剤併用療法が用いられており,歯の形成に対して個々の薬剤の影響についてはいまだ不明なことも多い。本研究では,抗腫瘍薬が歯の形成におよぼす影響を調べるために,歯の形成期のマウスにシクロホスファミドを投与し歯根形成を観察し検討した。まず歯の形態的変化を3D立体構築画像を用いて分析した結果,歯根形成時のシクロホスファミド投与は歯根の伸長を障害し,根尖孔が早期閉鎖する傾向を示した。また,組織学的検索でシクロホスファミドはヘルトウィッヒ上皮鞘の形成を阻害しており,これが歯根伸長の障害を引き起こす可能性が示唆された。今後も小児がん経験者は増加すると予想される。歯の形成不全のリスクを持つ小児がん経験者に対して,継続した歯科健診などのフォローアップとともに口腔疾患を予防するための口腔ケアプログラムの開発が望まれる。

  • 髙島 由紀子
    2017 年 55 巻 3 号 p. 352-357
    発行日: 2017/06/25
    公開日: 2018/07/23
    ジャーナル フリー

    齲蝕病原性細菌 Streptococcus mutansの表層には,齲蝕の発生に関与するグルカン結合タンパク(Glucan­binding proteins : Gbps)が存在する。これまでのところ,4種類(GbpA, GbpB, GbpC, GbpD)が報告されており,それぞれの遺伝子配列も決定されている。そのうちgbpC遺伝子がコードするGbpCタンパクは,他のGbpと比較してデキストラン結合能がもっとも高く,齲蝕原性に最も強く関与している。しかしながら,グルカンとの結合メカニズムは明らかとなっていなかった。そこで,バイオインフォマティクスの手法を用いてGbpCのグルカン結合領域を特定することとした。はじめにgbpC遺伝子より推定高次構造を構築し,結合ドメインと推定されるGB1からGB5の5つの領域を抽出した。これらの領域を含むリコンビナントGbpC断片タンパク(rGbpC)とこれらの領域を欠失させた変異株を作製した。rGbpCを用いてデキストラン結合能を調べた結果,gbpC遺伝子の上流に位置するGB1, GB3, GB4, GB5の領域を含むフラグメントBは,下流に位置するGB2を含むフラグメントCと比較してその値は高いものであった。さらに,GB4を欠失させた変異株(CDGB4)のデキストラン結合能は他の領域を欠失させた変異株と比較して有意に低下しており,その値は,GbpCを欠失させた変異株(CD1)と同程度であった。さらにこれらの株により形成されたバイオフィルムの構造を共焦点レーザー顕微鏡により比較したところ,CDGB4とCD1の構造はMT8148のものと比較して密度が低下していた。これらのことから,デキストラン結合ドメインはgbpC遺伝子内のGB4の領域であるDPTKTIFの7つのアミノ酸を中心活性として機能していることが示された。

原著
  • 石山 未紗, 横山 瑛里香, 櫨 万紀子, 楠田 理奈, 木舩 崇, 伊藤 寿典, 白川 哲夫
    2017 年 55 巻 3 号 p. 358-363
    発行日: 2017/06/25
    公開日: 2018/07/23
    ジャーナル フリー

    障がい児・者や歯科治療に対する恐怖心が著しく強い小児,遠隔地に在住の小児などについては,行動調整法として全身麻酔下での歯科治療が選択肢の一つになっている。本学付属歯科病院小児歯科では,近年全身麻酔下歯科治療の症例数が増える傾向にあり,以前に比べ全身麻酔下歯科治療のニーズが高まっていることが推測される。これまで障がい者や有病者を対象とした全身麻酔下歯科治療に関するアンケート調査はあるが,基礎疾患のない不協力児を対象に含めたアンケート調査報告はない。そこで今回,障がい児,有病児に加えて基礎疾患のない不協力児も対象として全身麻酔下歯科治療に対する保護者の意識調査を行った。

    平成27年1月から平成28年6月までの間に,小児歯科外来で全身麻酔下歯科治療を行った小児患者の保護者のうち,本研究への理解が得られた100名を対象としてアンケート調査を行い,以下の結果を得た。

    1.対象患者は男児56名,女児44名であり,平均年齢は5歳3か月であった。

    2.対象患者の内訳は,歯科治療への協力度が乏しい小児が78例,障がい児が11例,有病児が11例であった。

    3.対象患者のうち49%が全身麻酔下歯科治療を希望し当科に来院していた。

    4.全身麻酔下歯科治療後の満足度に関して,「満足」と「おおむね満足」を合わせると98%であり,当科での全身麻酔下歯科治療は患者のニーズに添ったものであると考えられた。

  • 高崎 千尋, 佐藤 嘉晃, 岩寺 信喜, 種市 梨紗, 八若 保孝
    2017 年 55 巻 3 号 p. 364-374
    発行日: 2017/06/25
    公開日: 2018/07/23
    ジャーナル フリー

    本学小児歯科学臨床基礎実習は将来的なポートフォリオ評価導入を念頭に平成24年度から「ルーブリック」と「振り返り」の記入を一体化した表(ルーブリック表)を試行導入した。ポートフォリオ評価には評価基準として「ルーブリック」を用いるのが有効で,「振り返り」が必須とされている。今回,我々はルーブリック表が実習や学習に有効かを検討するため,無記名式アンケートによる意識調査と自己評価点から有用性の検討を行った。対象は平成24~27年度に小児歯科学臨床基礎実習を受講し,ルーブリック表の記入や結果の公表に同意した4年次学生とした。アンケートはルーブリック表の効果や日々の学習への反映を問う内容とした。有用性の検討は,ルーブリックを用いてアウトカムに対する自己評価をさせ,各項目の平均点について初回と最終回で比較を行った。その結果,全年度でルーブリック表を実習に導入することに対して肯定的な意見が多数を占めた。その理由として,「振り返り」の効果を挙げる学生が多かった。自己評価点からの有用性の検討では,全年度で「自己学習能力」が初回に対して最終回で有意に高かった。「プロフェッショナリズム」も全年度で上昇し,4年度中,3年度で有意に高い値を示した。以上のことから,実習に試行導入したルーブリック表は学生の振り返りを促し,自己学習やプロフェッショナリズムを意識づける有効なツールとなることが示唆された。

  • 塩田 亜梨紗, 翁長 美弥, 恩田 智子, 唐木 隆史, 小平 裕恵, 菊池 元宏, 朝田 芳信
    2017 年 55 巻 3 号 p. 375-381
    発行日: 2017/06/25
    公開日: 2018/07/23
    ジャーナル フリー

    下顎における中切歯,側切歯および第一大臼歯の萌出パターンに関して,1980年以前は下顎第一大臼歯が,1980年以降は下顎中切歯が最も早く萌出するとする報告が続き,1980年を境に下顎永久歯の萌出パターンが変化した可能性があることが示唆されていた。

    そこで,最新の中切歯,側切歯,第一大臼歯の萌出パターンを知ることを目的に,乳歯列期からHell­ man's Dental Age III B期までの患児105名を対象に,永久歯の萌出パターンを縦断調査したところ,以下の結果を得た。

    1.萌出パターンは,男女間差,左右間差は共に認めらなかったが,上下間に有意差を認めた。

    2.上顎で最も多かった萌出パターンは【6(第一大臼歯)­1(中切歯)­2(側切歯)】,下顎で最も多かった萌出パターンは【1­6­2】であった。

    3.上顎は【1­2­6】と【1­6­2】間,下顎は【1­6­2】と【6­1­2】間に有意差を認めなかった。

    4.下顎中切歯が最初に萌出した群と下顎第一大臼歯が最初に萌出した群間における歯冠近遠心径を比較したところ,上顎側切歯において有意差を認めた。

    以上のように,少なくとも下顎で最初に萌出する歯種に有意差は認めず,萌出パターンに関しては現時点で変化したと断定するのは時期尚早であることが示唆された。また,歯冠近遠心径と萌出順序の関連性も疑われるが,さらに継続して研究を続ける必要があることが示唆された。

  • 髙井 理人, 大島 昇平, 中村 光一, 八若 保孝
    2017 年 55 巻 3 号 p. 382-389
    発行日: 2017/06/25
    公開日: 2018/07/23
    ジャーナル フリー

    人工呼吸器や経管栄養といった高度な医療を必要としながら在宅で生活する重症心身障害児(以下,重症児)は増加しており,在宅医療の拡充が必要とされている。しかしながら,重症児に対する訪問歯科診療はまだ十分に普及していない。そこで,本研究は重症児に対する訪問歯科診療の実態を調査し,その有効性を検討することを目的とした。

    平成27年4月から平成28年12月までの期間に当院で訪問歯科診療を実施した在宅人工呼吸器を使用する重症児27名(男性11名,女性16名)について,患者背景,口腔内状況,口腔機能,訪問歯科診療での対応について診療録より調査を行った。対象者の平均年齢は4.7±4.0歳,全員が複数の医療的ケアを必要とする超重症児,準超重症児であった。呼吸管理方法は気管切開人工呼吸器19名,鼻マスク式人工呼吸器8名であり,栄養管理方法は胃瘻22名,経鼻胃管4名,経口摂取1名であった。歯石沈着や歯肉炎を有する児が多く,また口腔機能不全を示す児が多かった。訪問歯科診療での対応では口腔清掃指導や摂食機能療法を中心としたが,乳歯抜去という外科的処置も行った。在宅で実施困難な診療内容については病院歯科との連携が必要であった。在宅人工呼吸器を使用する重症児においては歯科受診経験のない児や歯科受診を中断した児が多かったが,訪問歯科診療で継続的な口腔管理を行うことが可能であり,訪問歯科診療は受診手段として有効であることが示唆された。

  • とくに歯髄細胞のバンキングについて
    加藤 靖隆, 船山 ひろみ, 古屋 吉勝, 長岡 悠, 黒田 翠, 平山 展大, 朝田 芳信
    2017 年 55 巻 3 号 p. 390-396
    発行日: 2017/06/25
    公開日: 2018/07/23
    ジャーナル フリー

    iPS細胞を用いた再生医療に関する研究は急速に広がり,我が国では移植治療も開始されている。今回我々は,2010年と2014年に行った当科受診患者の保護者に対する再生医療に関するアンケート調査を比較し,再生医療に対する認知度と歯髄細胞のバンキングに対する関心度の変化を把握することを目的に本研究を実施した。

    再生医療,iPS細胞という言葉の認知度は高まり,情報の広がりがうかがわれた。しかし,歯髄細胞が再生医療に利用出来ること,歯髄からiPS細胞が樹立可能であることに対する認知度は4年間でほとんど変化がなく,非常に低い割合を示した。歯髄細胞のバンキングという言葉を知っている者は2010年および2014年ともに非常に低い割合であったが,歯髄細胞のバンキングを知っている者においては,その関心度はともに高かった。

    今後,歯科界からの再生医療を推進していくためには,歯および口腔由来の細胞が再生医療の有用な供給源となることを社会へ広く発信していくことが肝要であると考えられる。

臨床
  • 三科 祐美子, 高橋 俊智, 島村 和宏
    2017 年 55 巻 3 号 p. 397-402
    発行日: 2017/06/25
    公開日: 2018/07/23
    ジャーナル フリー

    Lesch-­Nyhan症候群は,X連鎖劣性遺伝形式を示すプリン代謝異常を呈する疾患である。高尿酸血症,精神発達遅滞,不随意運動,自傷行為などが主症状である。今回,Lesch­-Nyhan症候群の男児に対して,口唇への自傷行為防止に苦慮した一例を経験したので報告する。

    患児は初診時年齢1歳9か月の男児で,下唇正中赤唇部は咬傷による組織欠損が認められた。歯ぎしりや食いしばりも頻繁に行っていたため,4歳までに右側下顎乳側切歯および乳犬歯は保存不可能となった。歯ぎしり防止のためにソフトタイプとハードタイプのマウスガードを併用することで患児のストレス軽減を図った。マウスガード装着は継続できたが,上顎歯列の開大により頬粘膜の咬傷が認められるようになった。現在,ハードタイプマウスガードの装着に慣れ大きな欠損を伴う自傷行為には至っていないが,今後,注意深い経過観察が必要である。

feedback
Top