小児歯科学雑誌
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臨床
小児の上顎中切歯逆生埋伏に対して抜歯再植を応用した1例
石田 一輝石田 梢鈴木 淳司
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2018 年 56 巻 3 号 p. 403-410

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抄録

上顎中切歯の逆生埋伏に対する処置法として開窓牽引処置や摘出などが行われている。治療方針を選択するうえで歯冠軸傾斜度は重要な因子であり,従来90 度前後の角度が保存の可否を決定する一つの指標であった。 今回,我々は近医にて上顎正中埋伏過剰歯および上顎右側中切歯逆生埋伏を指摘され,紹介により当院を受診した7 歳2 か月の男児について報告する。上顎右側中切歯は過剰歯の鼻腔側に位置し,健側歯胚の歯冠軸と比較して約180 度逆生方向に埋伏しており,過剰歯摘出後の埋伏中切歯開窓牽引処置が非常に困難と考えられた。そのため同中切歯歯胚を一時的に摘出し,移植窩の空隙が大きく再植歯の安定が図れないため,骨補填材を用いて順生に再植した。 再植歯は術後約2 週間で切端が露出し,術後約9 か月で咬合位に達した。動揺度は術後約2 か月から5 年 8 か月に至るまで生理的動揺の範囲内であった。電気歯髄診による歯髄の生活反応は術後約5 か月から5 年 8 か月に至るまでほぼ正常に推移している。一方,再植直後より歯根形成は継続し歯根彎曲も認められなかったものの,歯髄腔は狭窄し,健側と比較し歯根長も約1/2 と短いなど,正常な形態の歯根および歯髄腔は形成されなかった。また,移植前の患側の中切歯は歯根形成約1/4 であり理想的な移植時期とは言い難く,再植歯の固定に骨補填材を用いたことなどからも非常に特異な症例と言える。今後もさらなる長期間の観察が必要であると思われる。

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© 2018 日本小児歯科学会
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