小児歯科学雑誌
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56 巻, 3 号
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総説
  • 渡辺 幸嗣
    原稿種別: 総説
    2018 年 56 巻 3 号 p. 361-366
    発行日: 2018/06/25
    公開日: 2019/06/25
    ジャーナル フリー

    微量元素は生体内に微量に存在する元素であり,アルミニウム,銅,マンガン,亜鉛などが挙げられる。これら微量元素は主に食物や飲料水により体内に摂取されるが,欠乏や過剰摂取により障害や疾患を引き起こす微量元素が存在することが知られている。本研究では,乳歯エナメル質を対象に,pH 6.2 またはpH 5.5 の酸性環境下にてエナメル質表面の単位面積当たりから溶出するアルミニウム濃度を測定し,患児の齲蝕罹患状況に基づいて濃度を比較した。その結果,pH 5.5 において,齲蝕経験歯から溶出したアルミニウム濃度が齲蝕未経験歯から溶出したアルミニウム濃度よりも有意に高値を示した。さらに,齲蝕未経験歯を対象に,それらの歯を提供した被険児の口腔内に存在する齲蝕歯数に基づいて溶出アルミニウム濃度を比較したところ,被険児の口腔内に齲蝕歯が多く存在する小児から得られた歯から有意に高値のアルミニウムが溶出した。同様に,齲蝕経験歯を対象にアルミニウム溶出濃度を比較したところ,齲蝕歯の多い被険児において有意に高値のアルミニウムが溶出した。このことから,pH 5.5 において,齲蝕感受性の高い小児の乳歯エナメル質からより多くのアルミニウムが溶出することが示唆された。この他,我々の過去の研究で得られた,混合唾液中の銅およびストロンチウムの濃度と被険児の齲蝕罹患状況について明らかとなった知見を報告する。

原著
  • 村井 雄司, 疋田 一洋, 富田 侑希, 小橋 美里, 蓑輪 映里佳, ISLAM Syed Taufiqul, 溝口 到, 齊藤 正人
    原稿種別: 研究論文
    2018 年 56 巻 3 号 p. 367-374
    発行日: 2018/06/25
    公開日: 2019/06/25
    ジャーナル フリー

    小児歯科において,低年齢時であっても不正咬合を診断するために,印象採得および歯列模型を作製し,歯列咬合を分析することで,現在の咬合を把握し,さらに将来の歯列や咬合の推測を行う必要がある。 しかし,従来のアルジネート印象材による印象採得では,歯科治療経験の少ない小児では抵抗を示すことが多く,精神的負担を与える。 近年,歯科医学において矯正歯科領域や歯冠補綴領域では口腔内スキャナーによる光学印象が導入されているが,小児歯科領域では広く普及していない。 本研究は小児に対し,従来のアルジネート印象と,口腔内スキャナーを使用した光学印象を行い,得られた歯冠形態のデータの比較やアンケート調査の結果から,小児歯科領域での有用性の検討を行った。 その結果,歯冠近遠心幅径はアルジネート印象により作製した歯列模型の測定値と光学印象による口腔内の実測値には有意差は認められなかった。またアンケート調査から,光学印象はアルジネート印象と比べ不快感を認めず,すべての被験者が今後は光学印象を希望するという結果が得られた。 以上から,小児歯科領域における歯列咬合分析では,口腔内スキャナーを用いた光学印象は有用であることが示唆された。

  • 宮山 友紀, 白瀬 敏臣, 亀岡 亮, 芦澤 みなみ, 三宅 真帆, 村松 健司, 楊 秀慶, 梅津 糸由子, 内川 喜盛
    原稿種別: 研究論文
    2018 年 56 巻 3 号 p. 375-383
    発行日: 2018/06/25
    公開日: 2019/06/25
    ジャーナル フリー

    都心に位置する附属病院小児歯科における小児の口腔外傷を調査し,高次医療機関として今後の治療指針を明確にすることを目的として,2011 年4 月から2016 年3 月までの5 年間に口腔外傷を主訴として当科に初診で来院した437 名について実態調査を行った。

    1 .口腔外傷を主訴に来院した患児は初診患者の11.0%を占めていた。

    2 .性別は乳歯が男児186 名(59.2%),女児128 名(40.8%),永久歯が男児61 名(69.3%),女児27 名(30.7%)で,男児に多かった。

    3 .初診時年齢は乳歯では2 歳(21.5%),1 歳(19.7%),3 歳(15.3%)の順に多く,永久歯では8 歳(5.3 %)で多かった。

    4 .紹介の有無は紹介ありが267 名(61.1%),紹介なしが170 名(38.9%)であった。

    5 .受傷歯数は乳歯が506 歯(76.7%),永久歯は154 歯(23.3%),歯の受傷のない者は33 例であった。

    6 .受傷様式は乳歯では脱臼性損傷が377 歯(62.9%),破折性損傷は166 歯(27.7%),変色が56 歯(9.3 %)であった。乳歯の動揺,埋入,歯冠破折,変色は2 歳が,転位は1 歳が最も多い一方で,歯根破折は 4 歳までは年齢とともに増加していた。永久歯では脱臼性損傷が111 歯(61.0%),破折性損傷は70 歯(38.5%)であった。

    7 .初診時の対応は乳歯,永久歯ともに経過観察が多く,埋入と変色でその割合が高かった。また,永久歯では初診時の抜歯は1 例もなかった。

    今回の調査結果から,大学附属病院では低年齢児の紹介患者が多く,より専門的な対応が求められていることが示唆された。

臨床
  • 本間 容子, 倉重 圭史, 大岡 令, 関口 隆, 川村 玲衣, 村井 雄司, 齊藤 正人
    原稿種別: 症例報告
    2018 年 56 巻 3 号 p. 384-389
    発行日: 2018/06/25
    公開日: 2019/06/25
    ジャーナル フリー

    双生歯は,正常歯の歯胚が近位に発生した過剰歯胚と合体したもの,ないし一つの歯胚が分裂したものと定義され,形態は正常歯と過剰歯が癒合した状態を呈する。双生歯は,過剰歯の好発部位である上顎前歯部の報告はあるものの,本邦において下顎第二大臼歯部に発生した報告はない。 下顎右側第二大臼歯は,5 歳10 か月および7 歳10 か月時にパノラマエックス線写真により形態異常を認め,12 歳2 か月に萌出した。下顎右側第二大臼歯は,頬面溝部から遠心にかけて過剰歯が癒合したと思われる形態異常を認めた。双生歯癒合部は石灰化が低く,形態も複雑であり齲蝕に罹患しやすく,根形態も非常に複雑で根管治療が困難なため,齲蝕処置や根管治療に至らないよう,早期からの齲蝕予防処置が重要である。またCT3D 構築画像は,双生歯の適切な齲蝕予防処置計画の立案などに有効であることが示唆された。

  • 荒井 亮, 有泉 由紀子, 秋元 佐和子, 高野 紗弥佳, 辻野 啓一郎, 新谷 誠康
    原稿種別: 症例報告
    2018 年 56 巻 3 号 p. 390-395
    発行日: 2018/06/25
    公開日: 2019/06/25
    ジャーナル フリー

    歯性上顎洞炎は根尖部の炎症が上顎洞内に波及することにより起こる歯性感染症である。しかし乳歯では上顎洞との間に後継永久歯胚が存在するため,乳歯が歯性上顎洞炎の原因歯となることは稀である。今回,我々は上顎第二乳臼歯根尖性歯周炎に起因した歯性上顎洞炎を経験したので報告する。 患児は6 歳5 か月の女児で,左側頰部圧痛および上顎左側乳臼歯部歯肉腫脹を主訴に来院した。CT 画像から左側上顎洞底粘膜の肥厚を認め,第二乳臼歯近心頰側根周囲の上顎洞底部骨の連続性が断たれている所見を認めた。上顎左側第二乳臼歯根尖性歯周炎に起因する左側歯性上顎洞炎と診断し,消炎処置後,原因歯の抜去を行なった。保隙装置を装着し,経過観察を行ったところ,1 年11 か月後に上顎左側第二小臼歯が歯列内に萌出した。 症例の把握のため,初診時と1 年2 か月経過時に撮影されたCT 画像の比較を行なった。CT 画像を比較分析するため基準平面を設定した。前鼻棘(ANS),後鼻棘(PNS),切歯孔中央から矢状基準面を設定した。ANS とPNS を含み矢状基準面に垂直な平面を水平基準面,2 つの基準面に垂直でANS を含む平面を前額基準面とした。さらにANS を基準点(O)とした。この基準から,上顎洞底粘膜の変化と後継永久歯胚の骨内萌出の様相を分析したところ,粘膜肥厚の消退と後継永久歯胚位置の改善を定量的に観察することができた。CT 画像の比較に我々の設定した基準平面は有用であったと考えられる。

  • 楠田 理奈, 高森 一乗, 根本 なつき, 木村 紗百合, 外木 守雄, 白川 哲夫
    原稿種別: 症例報告
    2018 年 56 巻 3 号 p. 396-402
    発行日: 2018/06/25
    公開日: 2019/06/25
    ジャーナル フリー

    乳歯の晩期残存や永久歯の萌出障害は健全な永久歯列育成の障害となるがその原因は多様である。今回,我々は下顎左側前歯部に乳歯の晩期残存と著しい骨増生を伴った後継永久歯の埋伏症例を経験した。 患児は初診時8 歳0 か月で,下顎左側乳中切歯,乳側切歯が残存しており動揺は認められなかった。またそれらの歯の歯槽部に骨様硬の膨隆が認められた。エックス線所見で両乳切歯の歯根はほとんど吸収されておらず,埋伏している左側中切歯および側切歯は遠心に傾斜し,歯冠を囲む嚢胞様の透過像を認めた。乳歯晩期残存,含歯性嚢胞の臨床診断のもと局所麻酔下で通法に従って乳歯抜歯ならびに開窓術を行った。処置 1 か月後に左側中切歯の萌出を認め,7 か月後に左側側切歯の萌出を認めたが,歯槽部の膨隆は明らかに増大していた。萌出した下顎左側両切歯の咬合誘導も検討したが,保護者の強い希望により下顎左側中切歯ならびに側切歯の抜去と骨整形を行った。病理組織学的診断は「反応性骨増生」であり,歯槽部の膨隆や永久切歯埋伏の原因は明確ではなかった。 現在,処置後2 年を経過しているが,処置部に骨増生の再発は認められず経過は良好である。

  • 石田 一輝, 石田 梢, 鈴木 淳司
    原稿種別: 症例報告
    2018 年 56 巻 3 号 p. 403-410
    発行日: 2018/06/25
    公開日: 2019/06/25
    ジャーナル フリー

    上顎中切歯の逆生埋伏に対する処置法として開窓牽引処置や摘出などが行われている。治療方針を選択するうえで歯冠軸傾斜度は重要な因子であり,従来90 度前後の角度が保存の可否を決定する一つの指標であった。 今回,我々は近医にて上顎正中埋伏過剰歯および上顎右側中切歯逆生埋伏を指摘され,紹介により当院を受診した7 歳2 か月の男児について報告する。上顎右側中切歯は過剰歯の鼻腔側に位置し,健側歯胚の歯冠軸と比較して約180 度逆生方向に埋伏しており,過剰歯摘出後の埋伏中切歯開窓牽引処置が非常に困難と考えられた。そのため同中切歯歯胚を一時的に摘出し,移植窩の空隙が大きく再植歯の安定が図れないため,骨補填材を用いて順生に再植した。 再植歯は術後約2 週間で切端が露出し,術後約9 か月で咬合位に達した。動揺度は術後約2 か月から5 年 8 か月に至るまで生理的動揺の範囲内であった。電気歯髄診による歯髄の生活反応は術後約5 か月から5 年 8 か月に至るまでほぼ正常に推移している。一方,再植直後より歯根形成は継続し歯根彎曲も認められなかったものの,歯髄腔は狭窄し,健側と比較し歯根長も約1/2 と短いなど,正常な形態の歯根および歯髄腔は形成されなかった。また,移植前の患側の中切歯は歯根形成約1/4 であり理想的な移植時期とは言い難く,再植歯の固定に骨補填材を用いたことなどからも非常に特異な症例と言える。今後もさらなる長期間の観察が必要であると思われる。

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