2018 年 56 巻 4 号 p. 450-459
未萌出永久歯の歯冠部に限局したエックス線透過像を示した症例についての報告は少ない。その発現部位は,主に大臼歯や小臼歯であり,また多くは下顎歯で,上顎歯では少ない。これらの症例は無症状で,偶然パノラマエックス線写真や咬翼法エックス線写真によるエックス線診査時に発見されることが多く,以前は齲蝕と思われていた。しかし,最近では歯冠部の特発性吸収と考えられるようになった。しかしながら,病因については,諸説が報告されているものの不明な点も多い。
今回,演者らは9歳3か月女児の未萌出上顎第二小臼歯と9歳10か月女児の未萌出下顎第一小臼歯の2症例および萌出間もない9歳11か月女児の下顎第二小臼歯歯冠部にエックス線透過像が認められ,1年前のパノラマエックス線写真において,すでに同様の所見がみられた1症例を経験したので報告した。3症例とも歯冠部象牙質内に限局しており,通法に従い,覆髄,裏層後コンポジットレジン修復を行った結果,経過良好である。
今回の3症例とも象牙質の実質欠損部は空洞を呈したことから,何らかの原因で生じた歯冠完成後の象牙質吸収によるのではないかと推測された。今回の3症例はいずれも偶然エックス線診査時に確認されたが,3例とも最初のエックス線写真において透過像を認識していなかった。このように,見落とされている症例も多いのではないかと思われる。したがって,今回の症例はエックス線診査時には齲蝕の有無,歯数の異常,未萌出歯の位置ばかりでなく歯冠部の透過像について精査することの重要性を示唆するものと考える。