小児歯科学雑誌
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56 巻, 4 号
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原著
  • 有限要素法による解析
    横井 由紀子, 山木 貴子, 河村 純, 遊佐 辰徳, 江花 照夫, 岡藤 範正, 大須賀 直人
    原稿種別: 研究論文
    2018 年56 巻4 号 p. 427-433
    発行日: 2018/11/24
    公開日: 2019/12/12
    ジャーナル フリー

    クラウンループは,第一乳臼歯が片側性に1 歯早期喪失した場合,第一大臼歯の萌出スペースを保持するために用いられる標準的装置である。本研究の目的は,基礎研究のひとつとして,クラウンループが歯周組織に与える影響について検討することである。同時に,ループの強度についても検討した。 計算方法は以下の通りである:クラウンあるいはループ(W 形,U 形)に力が作用した場合について,乳犬歯と第二乳臼歯の歯根膜に生じる応力を有限要素法によって計算した。歯と歯槽骨は剛体と仮定した。 歯根膜は非線形弾性体とし,ループは線形弾性体のはりとした。第二乳臼歯の咬頭に圧下力を加えた。また,ループ頬側に圧下力あるいは舌側方向の力を加えた。 その結果,以下の結論を得た。

    1 .第二乳臼歯の咬頭に圧下力が作用した場合,ループにはほとんど応力が生じなかった。すなわち,クラウンループは第二乳臼歯の歯根膜の応力に影響を与えなかった。

    2 .ループ頬側に圧下力が加わった場合,第二乳臼歯の咬頭に圧下力が作用した場合に比べて,第二乳臼歯の歯根膜の応力は2~3 倍に増加した。また,先端がW 形のループ頬側に圧下力が加わった場合には,第二乳臼歯だけでなく乳犬歯にも応力が生じた。

    3 .過大な咀嚼咬合力がループに加わった場合,ループとクラウンとの接合部で塑性変形が生じ破損する可能性が示唆された。

  • 阿部 洋子, 篠永 ゆかり, 人見 さよ子, 原田 京子, 園本 美惠, 西村 貴子, 河合 咲希, 永田 幸子, 有田 憲司
    原稿種別: 研究論文
    2018 年56 巻4 号 p. 434-440
    発行日: 2018/11/24
    公開日: 2019/12/12
    ジャーナル フリー

    大阪府某市立予防歯科センターでは,口腔疾患予防活動が45年以上継続して行われている。現在の受診幼児の口腔実態を把握する目的で,2016年4月から2017年3月までの期間に,歯科検診に参加した小児の検診記録から,全ての乳歯が萌出した児の年齢,性別,齲蝕罹患状態,フロスの使用状況,歯間空隙の有無,および咬合状態の項目について転記し,集計・分析を行った。

    対象児は2歳69人,3歳80人,4歳74人,5歳50人の計273人(男児155人,女児118人)であった。

    齲蝕有病者率は,2歳0.0%,3歳3.8%,4歳6.8%,5歳8.0%で,dft指数は2歳0.00,3歳0.04,4歳0.11,5歳0.28であり,全国平均より低く,特に4・5歳は著しく低いことが認められた。フロス使用率は,2歳33.3%,3歳51.3%,4歳59.5%,5歳62.0%であった。

    フロス使用児の使用頻度は,「たまに」,「毎日」,「週に数回」の順で多かった。また,齲蝕罹患児は4・5歳ではフロスを100%使用しており,無齲蝕児の使用率も増齢につれて増えていた。閉鎖型歯列は全体の45.0%に認められ,2・3歳の53.8~56.5%から4・5歳の32.4~34.0%に減少していた。

    正常咬合は,すべての年齢で最も高く,2~4歳で42.5~48.6%,5歳で64.0%であった。不正咬合では,過蓋咬合が最も多く,2歳39.1%,3歳41.3%,4歳32.4%,5歳20.0%と4歳以降に減少傾向を示した。

    一方,切端咬合は経年的に増加し,5歳児は10.0%であった。

  • 芦澤 みなみ, 梅津 糸由子, 林 陽佳, 巻 竜也, 新見 嘉邦, 白瀬 敏臣, 内川 喜盛
    原稿種別: 研究論文
    2018 年56 巻4 号 p. 441-449
    発行日: 2018/11/24
    公開日: 2019/12/12
    ジャーナル フリー

    大学附属病院小児歯科における過剰歯の傾向を把握し,高次医療機関としての過剰歯への対応を明確化することを目的に,2010年12月から7年間に当科を受診し過剰歯と診断された15歳未満の小児620名(787歯)について実態調査を行った。

    1.男女比は約3:1であった。

    2.過剰歯の好発部位は上顎切歯部であった。萌出方向は順生が50.1%,逆生が40.2%,水平が9.7%であった。萌出状態は埋伏が70.4%,萌出が29.6%であった。

    3.発見された経緯は「紹介元」が84.8%であった。

    4.診断時の平均年齢は7.1歳であった。

    5.画像検査法は,口内法と歯科用コーンビームCT(以下CBCT)の併用が54.0%と最も多かった。

    6.抜歯時の平均年齢は7.6歳(500名,620歯)であった。

    7.抜歯時の歯科的対応および平均年齢は通常下が44.6%(7.8歳),全身麻酔下が44.0%(7.4歳)であった。

    8.抜歯後の経路は,紹介元が60.0%で,一般歯科医院が243名と最も多かった。

    以上から過剰歯は萌出方向や萌出状態などが様々であるため,専門機関である大学附属病院への紹介が多く,画像検査にて過剰歯と近接する永久歯の状態を把握した上で患児の身体的,精神的負担を考慮し,抜歯時期や歯科的対応を選択していた。また,抜歯後は過剰歯による永久歯への影響に対応するため,定期的な管理の必要性を周知することが重要と考えた。

臨床
  • 久保田 文恵, 石井 華子, 石井 香, 京極 絵美, 久芳 陽一
    原稿種別: 症例報告
    2018 年56 巻4 号 p. 450-459
    発行日: 2018/11/24
    公開日: 2019/12/12
    ジャーナル フリー

    未萌出永久歯の歯冠部に限局したエックス線透過像を示した症例についての報告は少ない。その発現部位は,主に大臼歯や小臼歯であり,また多くは下顎歯で,上顎歯では少ない。これらの症例は無症状で,偶然パノラマエックス線写真や咬翼法エックス線写真によるエックス線診査時に発見されることが多く,以前は齲蝕と思われていた。しかし,最近では歯冠部の特発性吸収と考えられるようになった。しかしながら,病因については,諸説が報告されているものの不明な点も多い。

    今回,演者らは9歳3か月女児の未萌出上顎第二小臼歯と9歳10か月女児の未萌出下顎第一小臼歯の2症例および萌出間もない9歳11か月女児の下顎第二小臼歯歯冠部にエックス線透過像が認められ,1年前のパノラマエックス線写真において,すでに同様の所見がみられた1症例を経験したので報告した。3症例とも歯冠部象牙質内に限局しており,通法に従い,覆髄,裏層後コンポジットレジン修復を行った結果,経過良好である。

    今回の3症例とも象牙質の実質欠損部は空洞を呈したことから,何らかの原因で生じた歯冠完成後の象牙質吸収によるのではないかと推測された。今回の3症例はいずれも偶然エックス線診査時に確認されたが,3例とも最初のエックス線写真において透過像を認識していなかった。このように,見落とされている症例も多いのではないかと思われる。したがって,今回の症例はエックス線診査時には齲蝕の有無,歯数の異常,未萌出歯の位置ばかりでなく歯冠部の透過像について精査することの重要性を示唆するものと考える。

  • 立花 太陽, 村本 知歌子, 浅香 有希子, 河村 良彦, 佐野 哲文, 折原 莉紗, 渡邊 淳一, 佐野 正之
    原稿種別: 症例報告
    2018 年56 巻4 号 p. 460-465
    発行日: 2018/11/24
    公開日: 2019/12/12
    ジャーナル フリー

    過剰歯の発生頻度は1­5%であり,上顎正中部に好発する。これまでの報告をみると,一卵性双生児において本数の違う過剰歯が発現することは比較的稀である。今回我々は,本数の違う過剰歯を有する一卵性双生児1兄弟例を経験したので報告する。

    6歳0か月の一卵性双生児の男児1組。兄の歯が1本多いことを主訴に来院し,その2日後に弟が来院した。パノラマエックス線写真より上顎正中部に兄は3本,弟は2本の過剰歯を認めた。上顎埋伏過剰歯と診断し,摘出することとした。患児の協力度を考慮して年齢が高くなってから手術をすることも検討されたが,兄弟ともに逆性の埋伏過剰歯が認められたため,早期の摘出が望ましいと考えられた。6歳3か月時に笑気吸入鎮静法で局所麻酔下にて摘出した。術後の経過は良好である。

    一卵性双生児の類似性に関して,遺伝・環境的要因が大きく影響していると考えられてきた。本例における過剰歯の数や形,位置や方向の相違には,遺伝・環境的要因だけでなくエピジェネティクスな要因も影響していると考えられた。

  • 眞田 奈緒美, 嶋田 理菜, 岡田 裕莉恵, 山口 茜, 木村 奈緒, 根本(山本) 晴子, 清水 邦彦, 清水 武彦
    原稿種別: 症例報告
    2018 年56 巻4 号 p. 466-473
    発行日: 2018/11/24
    公開日: 2019/12/12
    ジャーナル フリー

    横紋筋肉腫は,骨格筋へ分化する胎児性間葉系細胞を発生母地とする軟部悪性腫瘍であり,小児の軟部悪性腫瘍としては代表的な疾患の一つである。今回我々は,横紋筋肉腫の治療に伴い歯および骨の形成障害を生じた7歳0か月の女児の1例を経験したので報告する。患児は2歳6か月時に右眼窩原発胎児型横紋筋肉腫(StageⅠ)と診断され,急速な腫瘍増大のため腫瘍の8割を経結膜にて摘出し,2歳7か月から4歳6か月まで化学療法が施された。更に,2歳8か月から2歳9か月までの期間に右側眼窩から上顎洞にかけて総線量45Gyの放射線治療が施行された。

    口腔内所見およびエックス線所見から,上顎右側部において矮小歯,歯胚の欠如,歯根形成不全,歯槽骨の形成不全が認められた。他部位においても歯胚の欠如やエナメル質石灰化不全を認めた。また,これらの症状に伴い,叢生および開咬を認めた。

    本症例に認められた,多数歯にわたる著しい形成障害や顎骨の発育不全は,横紋筋肉腫の治療の為に施された放射線療法および化学療法により誘発された可能性が示唆された。

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