2020 年 58 巻 3 号 p. 188-194
当センター小児歯科外来にて,生後2か月女児の口腔内に歯肉肥厚が認められる症例を経験した。歯肉肥厚は口腔内全体にび漫性に認められ,顎間空隙が認められなかった。歯肉の色調は正常で,弾性硬を呈しており,患児の父親も乳児期に同様の症状がみられたことから,遺伝性歯肉線維腫症と診断した。これまでの報告では,遺伝性歯肉線維腫症に対する治療法は歯肉切除術が主に行われていたが,今回われわれが遭遇した症例は,①乳歯未萌出期であること,②哺乳に多少時間がかかるものの,体重や身長の発育は定型発達内であること,③乳児期の患児に不必要な侵襲を与えないという理由から,経過観察を第一選択とし,乳歯の萌出遅延,摂食障害やその他機能障害の出現,線維腫の急激な増大などの所見が認められた場合には歯肉切除ならびに病理組織学的検査を行う計画を立てた。
経過観察の結果,平均的な時期に各々の乳歯が萌出し,萌出と同時に歯肉肥厚も退縮していった。よって,生後まもない乳歯未萌出期における遺伝性歯肉線維腫症に関しては,経過観察を第一選択とすることの有用性が示された。