小児歯科学雑誌
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原著
  • 奥 猛志, 阿多 美幸, 石倉 万里衣, 大内山 晶子
    原稿種別: 原著
    2020 年 58 巻 3 号 p. 77-81
    発行日: 2020/11/25
    公開日: 2021/11/25
    ジャーナル 認証あり

    乳歯列期小児の88名(男児61名,女児27名),平均年齢3歳11か月(2~6歳)に対して,血清グルコースと齲蝕罹患状況との関係について検討し,以下の結論を得た。

    1.d歯率(未処置齲歯数/(萌出歯数+m歯数)×100%)が50%以下の群の血清グルコース値は平均101.5 mg/dLであったのに対して,d歯率が50%を超える群の血清グルコース値は平均110.4 mg/dLと高値であったが両群間に有意差は認めなかった。

    2.C3歯数0本群の血清グルコース値は平均92.8 mg/dLであったのに対して,C3歯数1~4本群の血清グルコース値は平均108.0 mg/dLと有意(p<0.05:t検定)に高かった。C3歯数5本以上群の血清グルコース値は平均112.5 mg/dLとなり,C3歯数0本群と比較してさらに大きな有意差(p<0.01:t検定)を認めた。

    これらの結果から,重症齲蝕小児の血清グルコース値は軽症者と比較して高い傾向を認め,重症齲蝕と糖代謝とは関連している可能性が考えられた。

  • 原野 望, 渡辺 幸嗣, 佐伯 桂, 牧 憲司
    原稿種別: 原著
    2020 年 58 巻 3 号 p. 82-89
    発行日: 2020/11/25
    公開日: 2021/11/25
    ジャーナル 認証あり

    亜酸化窒素吸入鎮静法(以下,吸入鎮静法)は,適度な鎮静効果と健忘効果,そして鎮痛効果を有することから,世界の先進国の多くの医療機関で使用されている。しかし,歯科治療が困難な患者が多い小児歯科や障害者歯科では,すべての患者に有効であるとは言えず,他の行動調整法へ変更せざるを得ない場合がある。よって本調査では,吸入鎮静法の適正選択を検討するために,患者タイプと処置内容による吸入鎮静法の選択状況を調査し,他の行動調整法と比較した。2008年4月~2017年3月の9年間において,本学附属病院あんしん科を受診した初診患者2,417人(延べ患者14,485人)を対象とし,診療録を資料として後ろ向きに調査した。結果,吸入鎮静法の選択率は経年的に増加しており,外科処置ではその47%と最も多く選択され,次いで歯内処置で44%,修復処置で38%,補綴処置で36%に選択されていたが,予防歯周処置では11%と少ない傾向にあった。また,吸入鎮静法はすべての患者タイプにおいて選択されていたが,特に幼児期の歯科恐怖症で最も多く選択され,自閉スペクトラム症,精神疾患併発患者,脳性麻痺患者と比較して有意な差が認められた。以上のことから,吸入鎮静法は患者タイプと処置内容によって適切に選択することで,行動療法や体動コントロール,そしてより確実な鎮静状態を提供する静脈内鎮静法,全身麻酔法とともに,有用に活用できる行動調整法の一つであるということが示唆された。

  • 佐久間 信彦
    原稿種別: 原著
    2020 年 58 巻 3 号 p. 90-98
    発行日: 2020/11/25
    公開日: 2021/11/25
    ジャーナル 認証あり

    小児歯科を受診した患児の保護者がどのように保健医療情報を収集しているか調査を行った。子供の健康について情報を得たい時にインターネットを利用するかどうかについて,「よく利用する」「ときどき利用する」を合わせると9割以上であったが,「疑問が解決したかどうか」「情報が信頼できるかどうか」についてはともに半数以上の者が「どちらともいえない」と回答した。子供の口腔の健康についてインターネットを利用したかどうかについては,およそ6割が「利用したことがある」と回答し,外傷のような突発的で緊急性のある場合にインターネットが利用されることが多かった。健康に関するリーフレット等の紙媒体については受け取らないことも多く,また受け取ったとしても必ず読む者は少なく,紙媒体による情報の収集は積極的ではなかった。保健医療情報の収集の際,保護者には「その情報が自分の子供の状況に当てはまるかどうか」という不安がある可能性があり,日常臨床における医療者側からの子供本人の状況に関する十分な説明の重要性が示唆された。

  • 秋友 達哉, 浅尾 友里愛, 岩本 優子, 角 奈央, 渡辺 聖子, 光畑 智恵子, 香西 克之
    原稿種別: 原著
    2020 年 58 巻 3 号 p. 99-106
    発行日: 2020/11/25
    公開日: 2021/11/25
    ジャーナル 認証あり

    第三次医療機関小児歯科における経年的な齲蝕有病児の実態を把握するために,2008年度,2013年度および2018年度に齲蝕を主訴に当院小児歯科(以下:当科)へ初診で来院した未就学齲蝕有病児を調査し,以下のような結果を得た。

    1.各年度の当科の全初診患児に占める未就学齲蝕有病児の割合が経年的に増加していた。

    2.2008年度では3歳が最多であったが,2013年度および2018年度では5歳が多く,経年的に初診時年齢の増齢傾向を示した。

    3.2008年度と比較し,2013年度および2018年度で上顎乳前歯部により高い齲蝕罹患率を示した。

    4.「乳歯齲蝕の重症度分類」を用いて分類した結果,2008年度ではⅠ度が最も多かったが,2013年度および2018年度ではⅢ度が多く,2008年度から2013年度にかけて乳歯齲蝕の重症度が特に増悪していた。

    5.居住地別に比較すると,当院が位置する広島市南区の割合が経年的に減少する一方で広島市以外の県内市町村の割合が増加するなど,遠方から多くの患児が来院していた。

    6.紹介元は全年度で歯科開業医が最多であり,その割合は増加傾向にあった。

  • 川島 翼, 藤岡 万里, 井上 美津子, 草間 里織, 船津 敬弘
    原稿種別: 原著
    2020 年 58 巻 3 号 p. 107-115
    発行日: 2020/11/25
    公開日: 2021/11/25
    ジャーナル 認証あり

    日常の小児歯科臨床において,保護者から乳児の口腔に関わる相談を受けることが多々ある。しかし,小児歯科医が出産後間もない母親のわが子への口腔健康に対する意識にふれることは少ない。母親の育児や子供の口腔に関する不安を取り除き,子育て支援の一助とすることを目的として,われわれは本学附属病院にて実施している赤ちゃん歯科学級を受講した母親を対象に,乳児の口腔における心配事や現在の母親の関心事に関する調査を行った。平成28年度と平成29年度に実施したアンケート調査より以下の結果を得た。

    1.赤ちゃん歯科学級を受講した母親は「35~39歳」が33.8%と最も多く,35歳以上の母親が全体の半数以上を占めた。子供は「第1子」が87.1%と大半を占め,月齢は「生後6か月」が38.1%と最も多かった。子供の性別は男女ともほぼ同人数であった。

    2.妊婦歯科健診の受診率は99.3%で,ほとんどが本学附属病院で受診していた。

    3.現在の母親の心配事・関心事では,「離乳食」についての関心が最も高かった。

    4.子供の口腔内の心配事・関心事としては,「むし歯」が最も高い割合を示していた。

    われわれ小児歯科医は,子供の齲蝕治療や予防だけに留まらず,子供の口腔の発育・発達についての相談に対しても助言を行うことで,養育者の育児不安の軽減に寄与し,子育て支援の一助となるように努めるべきである。

  • 髙橋 摩理, 髙橋 真朗, 石﨑 晶子, 内海 明美, 弘中 祥司
    原稿種別: 原著
    2020 年 58 巻 3 号 p. 116-122
    発行日: 2020/11/25
    公開日: 2021/11/25
    ジャーナル 認証あり

    食事の問題は定型発達している小児,自閉症スペクトラム障害(Autism Spectrum Disorder,以下,ASD)児とも保護者にとって重大な関心事である。ASD児の食事の問題は定型発達している小児とは異なる特徴があると推察されるが,両者を比較した研究は少ない。そこで,幼児の食事に関してASD児と保育園児(以下,園児)を比較検討することで,ASDの食事支援の一助を得ることを目的に本研究を行った。

    対象は園児42名とASD児58名である。対象児の保護者に対して,口腔機能・食事に関するアンケートと対象児の給食場面評価を行った。アンケート結果では,園児の保護者は意欲に関する項目を多く選択していたが,ASD児の保護者は偏食の他,口腔機能に関する項目を多く選択していた。摂食嚥下機能では,園児で問題はほとんどみられず,食べ方や食具操作も年齢が上がるにつれ改善していた。一方ASD児においては,「捕食不可」「前歯咬断不可」が顕著であり感覚偏倚との関連が推察された。また,食具操作の未熟さが食べ方に影響を与えていることも考えられた。ASD児の食支援においては,疾病特性を理解した対応や療育環境の整備が重要であると思われた。

  • 長岡 悠, 船山 ひろみ, 唐木 隆史, 古屋 吉勝, 藤原 由美子, 小平 裕恵, 永岡 春香, 日野 亜由美, 稲永 詠子, 朝田 芳信
    原稿種別: 原著
    2020 年 58 巻 3 号 p. 123-131
    発行日: 2020/11/25
    公開日: 2021/11/25
    ジャーナル 認証あり

    被虐待児は,外傷のほかに歯科的にも齲蝕の多発や長期的な齲蝕の放置,口腔衛生管理等の課題を抱えているといわれている。

    本調査では,平成26年6月から平成27年7月までの期間に本学歯学部附属病院小児歯科外来を受診した初診患者1,344名のうち厚生労働省の3歳児健診歯科保健指導要領の齲蝕分類C2型に該当,または診療に当たった歯科医師・歯科衛生士やスタッフが虐待を疑う内容があると判断した患児187名を調査対象として,虐待に関するアセスメントシートの記入内容から,フローチャートに則り合議に至った8名と合議に至らなかった179名の比較検討を行った。

    1.齲蝕に重点を置いて対象を選んだこともあり,合議に至らなかった179名,合議に至った8名ともに主訴は齲蝕が多く,齲蝕罹患型はC2型が多かった。

    2.合議に至った8名は公的支援の受給の割合が高く,dft+DMFT指数も全国平均と比較して高かった。

    3.合議に至った患児に関する特徴について,不衛生が75%で最も多かった。その養育者に関しては,発症から受診までの期間が長すぎる(1か月以上)が50%と最も多かった。

    小児歯科診療では子供と接する時間が長く,情報提供により,虐待(ネグレクト)を未然に防ぎ重症化を予防できる可能性が高い。われわれ小児歯科医も,未来ある子供の成長を見守る一員として,各自治体と密に連絡を取り,多くの〝目〟で見守ることが肝要と思われる。

  • 貨泉 朋香, 船山 ひろみ, 野原 佳織, 黒川 亜紀子, 小林 利彰, 朝田 芳信
    原稿種別: 原著
    2020 年 58 巻 3 号 p. 132-141
    発行日: 2020/11/25
    公開日: 2021/11/25
    ジャーナル 認証あり

    本研究は,小児の口腔機能に関わる実態を把握し,日常生活から容易に判断できる口呼吸の早期発見に繋がる客観的な指標づくりを目的に,横浜市内の保育園1か所,幼稚園1か所における3~6歳児の保護者355名を対象に質問紙調査を実施した。

    質問紙内の「日中よく口を開けている」「口を開けて寝ることがある」「日中鼻がつまりやすい」および「睡眠時鼻がつまりやすい」の4つの項目の回答の組合せにより,口呼吸の定義を6つに設定した。定義ごとに口呼吸群と鼻呼吸群の2群に分類し,全66項目の質問に対して口呼吸群と鼻呼吸群の2群間で比較した結果,6つの定義すべてにおいて有意差が認められた項目が7つ明らかになった。そのなかで,口呼吸の習慣化を示唆する所見であり,かつ口呼吸の定義の設定に用いた項目である「日中よく口を開けている」「口を開けて寝ることがある」の2項目を除いた5項目は,以下の通りである。

    1.鼻の孔によく手を触れる。

    2.話しかけると聞き返すことがよくある。

    3.口がよく乾く。

    4.唇にしまりがない。

    5.食べ物を食べこぼす。

    これらの項目は「口呼吸の早期発見に繋がる新たな5徴候」と推察され,保護者や幼稚園教諭,保育士に周知することで,早期発見・対応に繫がると考えられる。

  • 山口 知子, 久保田 一見, 刑部 月, 石川 健太郎, 松浦 光洋, 江並 沙羅, 松原 こずえ, 幸田 優美, 丸岡 靖史, 池田 裕一 ...
    原稿種別: 原著
    2020 年 58 巻 3 号 p. 142-148
    発行日: 2020/11/25
    公開日: 2021/11/25
    ジャーナル 認証あり

    小児がん患者の口腔状態を明らかにする目的で,小児がん診療連携病院にて周術期等口腔機能管理を算定した小児がん患者について実態調査を行い,以下の知見を得た。

    1.患者数は2016年から2019年までの4年間で41名(女児22名,男児19名)であった。最も多かった原疾患は,急性リンパ性白血病(20名)であった。

    2.最も頻繁に観察された口腔内の有害事象は口腔粘膜炎で,化学療法や放射線療法,造血幹細胞移植などの治療時に観察された。他には齲蝕,萌出性歯肉炎,口腔乾燥などが観察された。

    3.Hellmanの歯齢ⅢB期では有害事象が最も多く11事象観察された。その内訳は,口腔粘膜炎,齲蝕,萌出性歯肉炎などさまざまであった。小児の成長発育に伴い,小児がん患者の口腔内に生じる有害事象も変化することが明らかになった。

    4.小児がん患者の周術期等口腔機能管理では,小児の成長発育を念頭に継続的な歯科介入を行うことが重要であると示唆された。

  • 前田 彩子, 久田 明奈, 星野 恵, 岩寺 信喜, 種市 梨紗, 中村 光一, 高崎 千尋, 八若 保孝
    原稿種別: 原著
    2020 年 58 巻 3 号 p. 149-156
    発行日: 2020/11/25
    公開日: 2021/11/25
    ジャーナル 認証あり

    近年,小児・障害者(児)の口腔環境は大きく変化している。また少子高齢傾向の顕在化や共働き世帯の増加,北海道大学病院小児・障害者歯科外来の診療室の移転や専門科の細分化など小児や当科を取り巻く環境も変化した。当科が今後さらに地域や医科と連携していくために,高次医療機関としての実状と今後の役割を把握する必要がある。そのため,過去6年間において北海道大学病院小児・障害者歯科外来を受診した新規来院患者の実態について調査を行い,以下の結論を得た。

    新規来院患者数は6年間で増加傾向を示した。初診時年齢は3歳が最も多く,主訴は齲蝕が最も多かった。また紹介患者の割合も6年間で増加傾向にあり,紹介率の平均は68.1%であった。患者の居住地は札幌市内が最も多かったが,遠隔地からの来院も認められた。全身疾患を有する患者は全体の36.2%を占めていた。治療実施方法は,通法治療(行動調整法含む)の割合が62.4%を占めていた。治療終了後も約半数の患者が当科で引き続き管理を行っていた。紹介患者の割合が高いこと,全身疾患を有している患者の多さや遠隔地からの来院患者の存在等から,当科が高次医療機関として広く認知され,その役割を担っていることが示された。しかし遠隔地からの来院患者が約3割を占めており,北海道特有の広域医療において医療の量や質の札幌圏の一極集中は解消されておらず,今後さらに地域医療機関との連携の強化を図る必要があると示唆された。

  • 横山 瑛里香, 梶井 友佳, 朝日藤 富子
    原稿種別: 原著
    2020 年 58 巻 3 号 p. 157-165
    発行日: 2020/11/25
    公開日: 2021/11/25
    ジャーナル 認証あり

    今回,一般歯科医院の10年間における小児初診患者の動向を調査した。小児歯科専門医勤務前後の5年間を前期群・後期群とし比較・検討を行い,以下の結論を得た。

    1.小児初診患者数は全期間で1,845人であり,総初診患者数に対する小児初診患者の割合は27.6%で,月平均初診患者数は15.1人であった。

    2.初診時年齢は全期間で6歳以下が73.0%であり,後期群では低年齢化が進んだ。

    3.当院から約2 kmの範囲にある近隣の町からの来院が7割以上であった。

    4.来院動機は通りがかりや看板をみて来院する者が最も多く,次いでホームページをみて来院する者や知人からの紹介が多かった。

    5.主訴は,健診希望が42.8%と最も多く,次いで齲蝕関連,予防関連,歯並び関連,受診勧告後,外傷の順に多かった。前期群では齲蝕関連が最も多く,後期群では健診希望と予防関連が増加し齲蝕関連より多かった。

    6.初診時齲蝕歯数は全期間で0本が55.1%であり,一人平均齲蝕歯数は後期群で減少していた。しかし,一人平均通院回数は,後期群で増加した。

    7.治療の中断のない患者が82.2%,ある患者が17.8%であり,後期群で中断のない患者が増加した。

    8.約1/4の患者が治療終了後に定期的に受診していた。後期群では定期的に受診する患者が増加した。

    以上のことから,一般歯科医院においても小児歯科は重要であり,小児歯科専門医により低年齢時から充実した診療や定期受診が可能となることが示唆された。

症例報告
  • 黒厚子 璃佳, 岩田 こころ, 北村 尚正, 松立 吉弘, 藤田 博己, 岩本 勉
    原稿種別: 症例報告
    2020 年 58 巻 3 号 p. 166-172
    発行日: 2020/11/25
    公開日: 2021/11/25
    ジャーナル 認証あり

    マダニは,鳥獣類を主体とした脊椎動物を刺咬し吸血する習性がある。刺咬したマダニが病原体を保有していると宿主はマダニ媒介感染症を発症する可能性があり注意を要する。これまでマダニ人体刺咬の国内での報告は多数みられるものの,口腔内を刺咬した症例報告はない。今回われわれは,マダニが口蓋部を刺咬した可能性が疑われた症例を経験したのでその概要を報告する。

    患児は1歳0か月の男児。口蓋右側中央部に小豆大の境界明瞭,黒色で一部褐色のまだら模様,表面滑沢な弾性硬の不動性の腫瘤を認めた。同日帰宅後より39℃台の発熱と,臀部,手掌,足底に発疹が出現し,近医小児科にて抗菌薬の処方を受けた。6日後に一旦解熱したものの,その2日後に再び発熱がみられたがすぐに解熱した。2週間後に当科を再診した際には腫瘤は消失し,同部に1~2 mm程度の圧痕が数か所とその周囲に水疱性変化を認めた。所見より口蓋部マダニ刺咬症と診断した。3か月後,水疱性変化は治癒し,9か月経過後現在,口腔内および全身症状の再燃なく良好に経過している。

    マダニが媒介する感染症は多く,なかには重症化すると死に至る可能性がある疾患もある。マダニが口腔内に直接侵入し,口腔内を刺咬することは通常は考えにくいことではあるが,何でも口に物を運ぶ低年齢時期では,マダニが付着したものを口腔内に持っていくことによって,刺咬される可能性があることが示唆された。

  • 土橋 容子, 馬場 篤子, 岡 暁子, 田村 翔悟, 難波 みち子, 内田 竜司, 岡村 和彦, 尾崎 正雄
    原稿種別: 症例報告
    2020 年 58 巻 3 号 p. 173-181
    発行日: 2020/11/25
    公開日: 2021/11/25
    ジャーナル 認証あり

    結節性筋膜炎は良性の腫瘍類似疾患に分類されるが,臨床所見のみでは,悪性腫瘍との鑑別が困難な疾患である。一般に四肢の皮下組織に好発し,口腔粘膜での発生は非常に稀である。今回われわれは,上顎乳前歯部に結節性筋膜炎を発症した4歳の女児の治療を経験した。来院時,上顎右側乳切歯は動揺しており,歯軸の偏位とそれに伴う咬合平面の歪みが認められた。医療面接より,この歯列不正は1か月で急速に進行したことがわかった。画像検索では上顎乳前歯相当部に比較的境界明瞭なエックス線透過像とそれに接する乳歯の歯根吸収,永久歯歯胚の捻転,歯槽骨の吸収が確認された。これらの所見から,顎骨腫瘍を疑い切除生検を施行した。免疫組織学的解析,病理組織学的検索を経て結節性筋膜炎と診断した。切除後7年経過した現在まで再発は認められない。歯槽骨吸収を伴う幼児の結節性筋膜炎については,国内外でも報告がないため本症例の診断と治療経過について文献的考察を加え報告する。

  • 志賀 正康, 杉山 智美, 島田 幸恵, 船津 敬弘
    原稿種別: 症例報告
    2020 年 58 巻 3 号 p. 182-187
    発行日: 2020/11/25
    公開日: 2021/11/25
    ジャーナル 認証あり

    セメント質過形成は下顎臼歯部に多くみられる非腫瘍性病変であり,顎骨に生じる不透過性病変のなかでも稀な疾患である。今回,唇顎裂児の顎裂に隣接した中切歯歯頸部周囲にセメント質過形成が生じたことにより萌出障害を起こした1例を経験したため報告する。

    患者は11歳男児。上顎左側中切歯の萌出障害のため矯正科より精査依頼があった。歯科用CTにより,上顎左側中切歯歯頸部に硬組織の過形成があると診断した。上顎左側中切歯の萌出,捻転の改善には過形成部の除去が必要と判断し,11歳6か月時に全身麻酔下にて処置を行った。処置後1か月で上顎左側中切歯の萌出が確認され,12歳2か月には捻転の改善を認めた。除去した硬組織はセメント質過形成と病理診断された。

    これまで上顎前歯部にセメント質過形成を伴う報告はなく,過去報告された症例とは異なった成立機序である可能性が示唆された。

  • 新居 由紀, 久保寺 友子, 今井 裕樹, 新谷 誠康
    原稿種別: 症例報告
    2020 年 58 巻 3 号 p. 188-194
    発行日: 2020/11/25
    公開日: 2021/11/25
    ジャーナル 認証あり

    当センター小児歯科外来にて,生後2か月女児の口腔内に歯肉肥厚が認められる症例を経験した。歯肉肥厚は口腔内全体にび漫性に認められ,顎間空隙が認められなかった。歯肉の色調は正常で,弾性硬を呈しており,患児の父親も乳児期に同様の症状がみられたことから,遺伝性歯肉線維腫症と診断した。これまでの報告では,遺伝性歯肉線維腫症に対する治療法は歯肉切除術が主に行われていたが,今回われわれが遭遇した症例は,①乳歯未萌出期であること,②哺乳に多少時間がかかるものの,体重や身長の発育は定型発達内であること,③乳児期の患児に不必要な侵襲を与えないという理由から,経過観察を第一選択とし,乳歯の萌出遅延,摂食障害やその他機能障害の出現,線維腫の急激な増大などの所見が認められた場合には歯肉切除ならびに病理組織学的検査を行う計画を立てた。

    経過観察の結果,平均的な時期に各々の乳歯が萌出し,萌出と同時に歯肉肥厚も退縮していった。よって,生後まもない乳歯未萌出期における遺伝性歯肉線維腫症に関しては,経過観察を第一選択とすることの有用性が示された。

  • 杉本 明日菜, 河原林 啓太, 岩本 勉
    原稿種別: 症例報告
    2020 年 58 巻 3 号 p. 195-203
    発行日: 2020/11/25
    公開日: 2021/11/25
    ジャーナル 認証あり

    空気嚥下症は過剰な空気の嚥下により,曖気(げっぷ),悪心,腹部膨満などの症状が持続的に生じる疾患である。患児は10歳6か月の男児で,当院小児外科で噴門形成術の術後より,空気嚥下による慢性的な腹部膨満症状と腹痛を訴えていた。このたび症状の改善がみられないため,術後の管理を行っていた当院小児科より当科を紹介された。患児は無意識下嚥下の際に,舌を上下顎歯列間に何度も突出させ,同時に口輪筋,オトガイ筋の過剰運動を行うことによって,より多くの空気を混ぜ込みながらの嚥下を頻回に行っていた。そこで,口腔筋機能療法(MFT)を開始し,安静時舌位の改善ならびに嚥下運動の正常化を目指した。訓練を重ねたところ,患児の舌位ならびに嚥下運動は改善し,それに伴い異常な空気嚥下の減少と腹部膨満症状とそれに伴う腹痛の軽快を認めた。これまで患児は胃内に溜まった空気を脱気するために,経鼻胃管が留置されていたが,訓練開始5か月後には胃管での脱気を必要としなくなり,胃管を抜管することができた。さらに口腔筋機能の改善に伴い,初診時にみられた開咬の改善もみられた。

    初診より1年7か月以上経過した現在も,訓練によって獲得された口腔筋機能は維持されており,過剰な空気嚥下や腹部膨満症状もなく,良好に経過している。

  • 岩田 こころ, 黒厚子 璃佳, 赤澤 友基, 森 浩喜, 岩本 勉
    原稿種別: 症例報告
    2020 年 58 巻 3 号 p. 204-211
    発行日: 2020/11/25
    公開日: 2021/11/25
    ジャーナル 認証あり

    乳歯の早期脱落の原因は,齲蝕,歯周疾患,外傷,咬合性外傷,ブラキシズム,全身疾患に関連するものが報告されている。しかし,稀に早期脱落の原因を特定することに苦慮する症例に遭遇することがある。今回われわれは,特発性乳犬歯早期脱落症例に対し,原因の追求を試みたのでその概要を報告する。

    患児は初診時年齢4歳6か月の男児で,下顎左側乳犬歯の早期脱落を主訴に来院した。初診時,下顎左側乳犬歯は脱落しており脱落窩を認めた。ブラキシズムによる咬耗を認めたが,齲蝕や外傷の既往は明らかでなく,かつ血液検査,細菌学的検査においても異常はみられなかった。そこで,脱落乳犬歯を実体顕微鏡で観察したところ,視診で識別困難な亀裂程度の破折線を認め,同歯のCT検査を施行したところ,歯冠の尖頭部表層から歯髄腔にまで連続した歯冠破折が生じていたことが明らかとなった。以上より,歯冠破折を契機に生じた歯髄壊死とそれに続く根尖性歯周炎の病態に,更なるブラキシズムや側方運動による過度な咬合圧が加わったことで,歯周組織の急激な破壊が進み,早期脱落につながったのではないかと推察した。

    乳歯は永久歯に比べ石灰化度が未熟で,その構造的特徴から歯の亀裂も生じやすい。そのうえで歯に過度な力が加わる場合,微小亀裂から歯髄に到達する歯冠破折が生じ,場合によっては早期脱落の一因になる可能性があることが示唆された。

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