2021 年 59 巻 3 号 p. 140-147
下顎左側第二乳臼歯の埋伏を主訴として来院した6歳の男児に対し,パノラマエックス線写真撮影および歯科用コーンビームCT撮影を行った。第二乳臼歯は,著しく歯軸を遠心傾斜させて埋伏しており,歯冠部周囲に顎骨内病変が認められた。放射線学的観察では,病変は単房性でエナメル質様硬組織の小塊を内包しており,埋伏している下顎左側第二乳臼歯の歯嚢とは連続していなかった。また後継永久歯である下顎左側第二小臼歯歯胚が確認されなかった。臨床学的な検索から,下顎左側第二乳臼歯部の歯牙腫とそれに伴う第二乳臼歯の埋伏と診断した。局所麻酔下において歯牙腫を摘出し,周囲組織を生検組織として採取した。下顎左側第二乳臼歯は歯冠周囲の歯嚢を除去し粘膜開窓の状態で温存した。下顎左側第二乳臼歯開窓部の保持と下顎左側第一大臼歯の近心傾斜を防止することを目的として創部にレジン床を装着した。
歯牙腫摘出から1年半後,温存した下顎左側第二乳臼歯に自発的な歯軸の改善が観察されたため,萌出スペースを得る目的で下顎左側第一大臼歯の近心傾斜に対する咬合誘導を開始し,下顎左側第二乳臼歯を下顎歯列弓内へと配列した。
本症例の4年以上にわたる治療経過と歯牙腫周囲の病理組織像についての考察を報告する。