2021 年 59 巻 3 号 p. 154-160
小児における顎口腔領域の腫瘍性病変の中で,血管腫は比較的多く見られる疾患の一つである。しかし,経過や所見は多岐にわたり成人と異なるため,その診査・診断は困難を要する。今回,乳歯の外傷の既往がある3歳0か月の患児において,血管腫様の異常所見を認めるも確定診断を下せず,経過観察する中でMasson's intravascular hemangioma(MIH)と診断された症例を経験したので報告する。
患児は上顎乳前歯部の外傷後の歯冠変色と上顎左側乳臼歯部の歯肉腫脹を主訴に当科を来院した。エックス線検査より歯肉腫脹部周囲の乳歯は健全であり,原因は不明であった。経過観察を行うも,腫脹部の増大化と審美面の障害から,外来にて摘出術を実施し,病理組織検査よりMIHと診断された。腫瘍摘出後の経過は良好で,現在再発の徴候は認めない。歯肉腫脹部に隣接する乳歯は歯髄の生活反応を認め,機能面・審美面の回復もできた。
成長発育過程にある小児では,介入時期の選択にあたりエックス線検査の頻度や患児への対応面を配慮する必要がある。今後,腫瘍再発の有無の確認を永久歯萌出完了まで経過を追う予定である。