小児歯科学雑誌
Online ISSN : 2186-5078
Print ISSN : 0583-1199
ISSN-L : 0583-1199
症例報告
3歳児の下顎前歯部に発症した含歯性嚢胞の1例
中島 咲帆亀岡 亮梅津 糸由子内川 喜盛白瀬 敏臣井出 吉昭柳下 寿郎
著者情報
ジャーナル フリー

2022 年 60 巻 2 号 p. 82-89

詳細
抄録

含歯性嚢胞は発育性の嚢胞であり,下顎前歯部に生じることはまれで,さらに5歳未満の報告は少ない。今回われわれは3歳児の下顎左側中切歯に起因し,隣接歯胚の位置異常を伴った含歯性嚢胞を経験したので報告する。

患児は3歳10か月の男児で,下顎乳前歯の歯肉が腫れていることを主訴に当院を紹介されて来院した。初診時,患児の口腔内は下顎前歯部舌側歯肉から口腔底にかけて膨隆を認め,その膨隆部は羊皮紙様感を触知した。CT所見から,下顎前歯部に17.8 × 12.9 × 14.7 mm大の単房性の透過像を認め,境界は明瞭,皮質骨は唇舌的に膨隆しており,一部で皮質骨の不連続を認めた。透過像内には下顎左側中切歯歯胚が含まれており,下顎左側側切歯歯胚は病変に圧迫されて大きく遠心に偏位,捻転していた。全身麻酔下にて下顎左側乳中切歯,乳側切歯抜歯後,下顎左側中切歯歯胚を含む病変を摘出した。病理組織診断は炎症を伴う含歯性嚢胞であった。下顎左側乳中切歯のマイクロCT所見から,切縁部に認めた修復物は歯髄に達しており,歯根の舌側面には根尖側約1/2に及ぶ吸収窩を認めた。以上より,含歯性嚢胞が早い時期に形成され,緩徐に発育し,そこへ歯髄からの炎症が根尖を通して嚢胞へ波及し,急激に滲出物が嚢胞内に入り込んで拡大したことが考えられた。術後1年経過した現在も嚢胞の再発は認めず,骨の新生とともに下顎左側側切歯歯胚も正中方向へ位置の改善を認め,経過は良好である。

著者関連情報
© 2022 日本小児歯科学会
前の記事
feedback
Top