小児歯科学雑誌
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60 巻, 2 号
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原著
  • 枡富 由佳子, 邉見 蓉子, 枡富 健二
    原稿種別: 原著
    2022 年 60 巻 2 号 p. 45-53
    発行日: 2022/06/25
    公開日: 2023/06/25
    ジャーナル 認証あり

    上顎第三大臼歯は,下顎第三大臼歯に比して抜歯選択のほかに臨床的活用範囲が広いと考える。今回,パノラマエックス線写真とCT画像を用いて上顎第三大臼歯の形成時期および形態評価,存在位置について調査を行った。併せて,年齢ごとの保存率と患者の認識についての調査を行った。

    第三大臼歯を1歯でも保有する者のうち約9割に上顎第三大臼歯は存在した。第三大臼歯の存在は年齢とともに減少し,40歳代では69.6%,70歳代は33.5%であった。患者が意図的に保存していると回答した者は5.2%と低い結果であった。

    歯根形成は主に19歳から21歳にかけて進み24歳頃に完了し,形成に伴い萌出が進むが,歯根形成完了後でもわずかに3.1%しか咬合平面に達していなかった。また,CT画像から歯根形成終了後に歯軸が遠心傾斜しているものは25.7%,近心傾斜しているものは23.8%であった。このうち第二大臼歯の歯根吸収を起こすような近心傾斜角の大きいものが2.6%にみられた。

    咬頭数は,4咬頭が31.2%,3咬頭が46.2%,それ以外が22.6%であった。

    上顎第三大臼歯の特徴を理解したうえで,パノラマエックス線写真および三次元データを活用し,より的確な臨床診断が可能になると考えられた。

  • 湯沢 真弓, 永岡 春香, 黒木 貴子, 茂呂 歩実, 伊平 弥生, 朝田 芳信
    原稿種別: 原著
    2022 年 60 巻 2 号 p. 54-61
    発行日: 2022/06/25
    公開日: 2023/06/25
    ジャーナル 認証あり

    操作性の異なる3種類の修復材料(ローフロー,ゼロフローおよびペースト)を,乳前歯と乳臼歯合わせて249窩洞に充塡し,その評価を6か月後と1年後に行った。3種類のキッズレジンの臨床成績は,以下のような結果であった。

    ①乳前歯において臨床的に予後良好と判断した割合は,6か月後および1年後において96%以上であり,キッズレジン間で大きな違いはみられなかった。

    ②乳臼歯において臨床的に予後良好と判断した割合は,6か月後および1年後において約90%以上であり,キッズレジン間で大きな違いはみられなかった。

    ③窩洞形態別の予後評価においては,乳前歯のⅢ級,Ⅳ級ならびに,Ⅴ級窩洞で予後に大きな違いはみられなかったが,乳臼歯ではⅠ級およびⅤ級窩洞に比べてⅡ級窩洞では低い値を示した。

    これらの結果から,3種類のキッズレジンが乳歯用の修復材料として,臨床的に有用であることが示唆された。

症例報告
  • 高橋 昌司, 荻原 孝, 香西 克之
    原稿種別: 症例報告
    2022 年 60 巻 2 号 p. 62-73
    発行日: 2022/06/25
    公開日: 2023/06/25
    ジャーナル 認証あり

    永久歯の萌出異常は小児歯科臨床において散見される。多くの場合,適切な時期に処置介入することで萌出を促すことが可能である。その一方で対応が困難で苦慮する場合や萌出させることができない場合がある。今回われわれは,通法どおりの対応で萌出誘導が可能であった「良好群」4症例と,骨性癒着を疑い牽引が困難,あるいは不可能であった「非良好あるいは難症例群」4症例の治療経過を提示し,術前診査所見を両群間で比較検討した。そして以下の知見を得た。

    1.術前エックス線写真診査において,患歯の歯根膜に不明瞭な像があれば骨性癒着を疑う。特にCBCTによる三次元的精査が有効である。

    2.明らかな萌出障害物がないにも関わらず,歯冠の一部を歯肉縁上に露出して萌出を停止している場合には骨性癒着を疑う。

    3.患歯や隣接部への受傷,あるいは過剰歯の抜去など患歯歯根膜損傷の原因になり得る既往の有無について問診する。既往があれば萌出誘導が困難である可能性を考慮する。

    4.骨性癒着歯の特徴として広く知られる打診音の変化や生理的動揺の喪失は,早期の骨性癒着では検出されにくい。

    以上から牽引など萌出誘導が困難と予測される場合には,治療開始前に処置の侵襲性とその効果について十分に検討する。さらに治療結果の不確実性やその後の対応策を患児や保護者に十分説明し,共有しておくことが臨床的に重要である。

  • 五十嵐 悠, 川島 翼, 船津 敬弘
    原稿種別: 症例報告
    2022 年 60 巻 2 号 p. 74-81
    発行日: 2022/06/25
    公開日: 2023/06/25
    ジャーナル 認証あり

    歯肉線維腫症は,主に小児期に発症し緩徐に進行する歯肉増殖を特徴とするまれな疾患である。今回,歯肉線維腫症と上顎両側犬歯の埋伏および上顎両側大臼歯部の埋伏過剰歯を併発した1例を経験したため報告する。

    患者は6歳6か月男児。近医より永久歯の萌出遅延を指摘されたことにより来院した。口腔内所見は上顎歯肉が著しく腫脹しており,歯冠は臨床的歯冠長が得られず一部がわずかに萌出していた。家族歴として両親および祖父母には認められないが,弟には同様の症状がみられるため,遺伝性歯肉線維腫症と診断した。8歳8か月時のパノラマエックス線画像より,上顎両側犬歯部では歯胚を含む境界明瞭な透過像を認め,上顎両側第二大臼歯部に過剰歯の歯胚を認めた。9歳8か月時に歯肉切除術および上顎両側犬歯部開窓術,10歳6か月時に過剰歯抜去術を全身麻酔下にて行った。10歳11か月となる現在まで定期的に口腔清掃指導を行い,良好なプラークコントロールが保たれており歯肉増殖の再発は認められない。今後は,矯正治療の開始時期に再発が高くなることが考えられ,長期的な経過観察と継続的な口腔衛生管理が重要である。

  • 中島 咲帆, 亀岡 亮, 梅津 糸由子, 内川 喜盛, 白瀬 敏臣, 井出 吉昭, 柳下 寿郎
    原稿種別: 症例報告
    2022 年 60 巻 2 号 p. 82-89
    発行日: 2022/06/25
    公開日: 2023/06/25
    ジャーナル 認証あり

    含歯性嚢胞は発育性の嚢胞であり,下顎前歯部に生じることはまれで,さらに5歳未満の報告は少ない。今回われわれは3歳児の下顎左側中切歯に起因し,隣接歯胚の位置異常を伴った含歯性嚢胞を経験したので報告する。

    患児は3歳10か月の男児で,下顎乳前歯の歯肉が腫れていることを主訴に当院を紹介されて来院した。初診時,患児の口腔内は下顎前歯部舌側歯肉から口腔底にかけて膨隆を認め,その膨隆部は羊皮紙様感を触知した。CT所見から,下顎前歯部に17.8 × 12.9 × 14.7 mm大の単房性の透過像を認め,境界は明瞭,皮質骨は唇舌的に膨隆しており,一部で皮質骨の不連続を認めた。透過像内には下顎左側中切歯歯胚が含まれており,下顎左側側切歯歯胚は病変に圧迫されて大きく遠心に偏位,捻転していた。全身麻酔下にて下顎左側乳中切歯,乳側切歯抜歯後,下顎左側中切歯歯胚を含む病変を摘出した。病理組織診断は炎症を伴う含歯性嚢胞であった。下顎左側乳中切歯のマイクロCT所見から,切縁部に認めた修復物は歯髄に達しており,歯根の舌側面には根尖側約1/2に及ぶ吸収窩を認めた。以上より,含歯性嚢胞が早い時期に形成され,緩徐に発育し,そこへ歯髄からの炎症が根尖を通して嚢胞へ波及し,急激に滲出物が嚢胞内に入り込んで拡大したことが考えられた。術後1年経過した現在も嚢胞の再発は認めず,骨の新生とともに下顎左側側切歯歯胚も正中方向へ位置の改善を認め,経過は良好である。

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