「口腔機能発達不全症」を診断する際の構音機能の評価では,音声だけでなく,咬合,口唇や舌の形態とそれらの動きを含めた構音操作を診察する必要があるが,その評価方法は確立されていない。われわれは,語音を作る器官としての口唇機能を評価する方法として,上下の口唇の閉鎖(接触)が必要な両唇音を構音する際に,上下の口唇が接触せず歯唇音になっている小児を観察し,その要因について検討した。
4~12歳の男女146人を対象とし,両唇音を含む単語を構音させ口唇の動きを記録した。両唇音構音時の口唇閉鎖の有無から,口唇接触群(接触群)と非口唇接触群(非接触群)に分け,口唇閉鎖力およびオーバーバイト(OB),オーバージェット(OJ)を比較した。その結果,乳歯列期および切歯交換期において,口唇閉鎖力や切歯被蓋関係は,接触群と非接触群の間に有意な差を認めなかった。一方で,側方歯交換期では,非接触群では口唇閉鎖力は有意に低く,OJは有意に大きいことが示された。また,ロジスティック回帰分析においても,両唇音構音時の口唇閉鎖の有無には,口唇閉鎖力とOJが有意に影響していることが示された。
両唇音構音時の口唇閉鎖の有無を観察するという診査方法は,口腔機能における口唇閉鎖を確認できる1つの手法であり,口腔機能発達不全症を診断する新しい評価方法となる可能性をもっていることが示唆された。