「口腔機能発達不全症」を診断する際の構音機能の評価では,音声だけでなく,咬合,口唇や舌の形態とそれらの動きを含めた構音操作を診察する必要があるが,その評価方法は確立されていない。われわれは,語音を作る器官としての口唇機能を評価する方法として,上下の口唇の閉鎖(接触)が必要な両唇音を構音する際に,上下の口唇が接触せず歯唇音になっている小児を観察し,その要因について検討した。
4~12歳の男女146人を対象とし,両唇音を含む単語を構音させ口唇の動きを記録した。両唇音構音時の口唇閉鎖の有無から,口唇接触群(接触群)と非口唇接触群(非接触群)に分け,口唇閉鎖力およびオーバーバイト(OB),オーバージェット(OJ)を比較した。その結果,乳歯列期および切歯交換期において,口唇閉鎖力や切歯被蓋関係は,接触群と非接触群の間に有意な差を認めなかった。一方で,側方歯交換期では,非接触群では口唇閉鎖力は有意に低く,OJは有意に大きいことが示された。また,ロジスティック回帰分析においても,両唇音構音時の口唇閉鎖の有無には,口唇閉鎖力とOJが有意に影響していることが示された。
両唇音構音時の口唇閉鎖の有無を観察するという診査方法は,口腔機能における口唇閉鎖を確認できる1つの手法であり,口腔機能発達不全症を診断する新しい評価方法となる可能性をもっていることが示唆された。
下顎第一・第二小臼歯根尖部に両側性過剰歯を計4 歯認めた症例を経験したので報告する。
患者は,初診時年齢14歳5か月の男子,近医より過剰歯を指摘され本院を受診となる。口腔内所見として,萌出している第二小臼歯は,第一乳臼歯に類似した形態異常を呈していた。CT画像所見から,下顎第一・第二小臼歯の根吸収はなく,各歯の根尖部舌側に過剰歯と思われる歯胚形成を計4歯認めた。CT画像から過剰歯と思われる歯胚は,下顎第一・第二小臼歯の歯冠形態と類似していた。18歳3か月に全身麻酔下にて過剰歯を抜去したところ過剰歯の歯冠形態は,一般的な下顎第一・第二小臼歯形態と類似していた。
多数の過剰歯を認める症例は稀である。複数歯の過剰歯が生じる症例は,下顎の小臼歯部に多くみられ,両側性に生じやすい。小臼歯部の過剰歯は発生時期が12~14 歳頃とされており,本症例においても,14歳時に発見され経過観察を行っていた。口腔内所見として,萌出している下顎第二小臼歯には形態異常を認め,下顎第一乳臼歯に類似していた。下顎第一乳臼歯に類似した歯冠の形態異常は,下顎第二小臼歯に両側性でみられることが多いとされている。
本症例では,下顎第二小臼歯が下顎第一乳臼歯に類似した形態異常を認め,過剰歯の診断に苦慮した。過剰歯は偶然に発見されることが多い。過剰歯の診断には,発生過程および特徴の理解,CT撮像による三次元的観察を行うことで,確実な診断が行えることが示唆された。
マスコットが付いた長さ30cmのボールペンが原因となった軟組織損傷を2例経験した。症例1では軟口蓋に3箇所に及ぶ大きな裂傷を認め,全身麻酔下にて21糸の縫合術を施行した。症例2では上唇小帯部に軽度の裂傷を認め,経過観察とした。ボールペンといった通常口腔内に入れて使用しない日用品であっても乳幼児は口に入れて遊んでしまうため,口腔内にものを入れて遊ぶことの危険性について,保護者への注意喚起が必要であると痛感した。