抄録
遺伝性エナメル質形成不全症は,遺伝的要因によってエナメル質の形成が特異的に阻害され,歯以外の硬組織には形態学的にも生化学的にも異常が認められない疾患である。
われわれは,本学付属病院小児歯科外来を訪れた13歳と11歳の姉妹およびその母親にみられた遺伝性エナメル質形成不全症例について,患歯にレプリカ法を応用し,走査型電子顕微鏡によるin vivoの状態での観察を行った。そして,これらの所見に本疾患の遺伝的背景についての考察を加えて,次のような興味ある知見を得た。
1)エナメル質形成不全の状態が,全ての永久歯に及び,しかも波状エナメル質(welliger Schmelz)の状態を呈している。
2)臨床所見とSEM所見とを考え合わせると,本症例はWitkopや石木らの分類しているところのhypoplastic typeに相当する。
3)本症例の遺伝形成は,家系図から判断して常染色体性優性遺伝かあるいは伴性優性遺伝のいずれかである。
4)in vivoの状態で永久歯の表面構造を観察する方法として,レプリカ法はその再現性において有効な研究方法であると思われる。