1982 年 20 巻 2 号 p. 264-270
〓が著明に低位に位置して晩期残留し, かつその部の後継永久歯が欠如していたにもかかわらず乳歯根に著しい吸収とankylosisのみられた症例について抜去乳歯の非脱灰研磨標本を作製し, 象牙質と骨組織の関連を中心に組織学的に検索した.患者はスケーリングを希望して来院した18歳の男子で,家族歴,既往歴,歯科所見以外の診査等には特記すべき事項はなかった.
X線的に後継永久歯が欠如していたにもかかわらず, 残留乳歯のいずれにも歯根の吸収が顕著にみられた.組織学的に象牙質吸収面には結合組織を介さずに骨組織が密接し, しかも両者の境界が不明瞭な部分もあった.さらに, 象牙質と骨組織の境界から離れた象牙質中に骨組織の小塊が散見され, また逆に骨組織中に象牙質小塊が残存する所見もみられた.象牙質吸収面にはodontoclastが認められなかったことより, 象牙質の吸収にはodontoclastの関与しない機序もあることが形態学的に示唆された.