抄録
象牙質形成不全症(dentinogenesis imperfecta)は,象牙質の形成が遺伝的因子によって原発的に障害される疾患であり,遺伝形式は常染色体優性遺伝を示し,浸透率の高い疾患である。
本疾患は,乳歯および永久歯ともに,特有な灰褐色の歯冠着色と,萌出直後からエナメル質の破折をともなう急激な咬耗をきたすばかりでなく,歯根形成不全にもとずく歯の動揺など,臨床的に困難な問題をかかえている疾患である。
今回,鶴見大学歯学部附属病院小児歯科外来を訪れた患児で象牙質形成不全症と診断された姉弟について,遺伝背景,臨床所見ならびに脱落乳歯の組織学的所見について検索し,以下のような知見を得た。
1.遺伝形式は,問診の結果,常染色体優性遺伝形式と考えられるが,母親およびその同胞の発症は認められなかった。
2.臨床的ならびに組織学的に,乳歯および永久歯のすべてにわたり,象牙質形成不全症の様々な所見が認められた。
3.姉弟の乳歯列期の歯列保護に対して,処置法に違いがあり,低年齢時の歯冠歯質の保護の有効性が認められた。
4.乳歯列期,混合歯列期,永久歯列期において総合的な治療を行なうことの重要性が示唆された。