抄録
I-celldiseaseは先天性糖質代謝異常症の1つでHurler症候群のようなムコ多糖症に臨床症状が類似し,特異な顔貌,発育障害,精神発達遅滞などの症状を呈する。しかし・尿中の酸性ムコ多糖は増量せず,皮膚の培養線維芽細胞中に多数の封入体を認め,ムコ多糖症とは異なるmucolipidosisのII型に分類される疾患である。
症例は初診時年齢3歳2ヵ月で齲蝕治療を主訴として来院した現在12歳の男児である。患児は著しい身体の発育障害,gargoyl様顔貌珠儒,四肢の関節拘縮軽度の精神発達遅滞を認める。X線所見では全身に多発性骨異形成を認め,手根骨にみる骨年齢は暦年齢よりも2-3年遅れている。口腔内所見として有隙歯列,開咬,巨大舌,歯槽骨の吸収,乳歯根の吸収不全,歯根形態異常,開口障害,永久歯萌出遅延などを認めるが歯胚の欠如はない。抜去乳歯の組織学的観察では,象牙質に低石灰化部分を認め,歯根部象牙細管の走行が乱れ,第2セメント質の形成が著しい。硬さ試験の結果,象牙質のKnooP硬さの値は健全歯のものと比べ有意に小さい。熱重量測定の結果,象牙質の構成成分比は正常であるが,示差熱分析の発熱反応ピークにわずかな異常を認める。
本症の病因が糖タンパクの代謝異常によるとされていることを考えると,以上の結果は本症例象牙質の有機質を構成する物質に質的な差が存在する可能性を示唆している。