抄録
予防充填処置や保存修復時, 歯質とレジンとの接着力を向上させるため, リン酸によるエナメル質酸処理法が広く行われている。しかし,この操作は健全エナメル質に対して化学的損傷を与える欠点もあり,レジンにより被覆されなかった酸処理エナメル質は,齲蝕発生の危険性が考えられる。そこで,本研究は石灰化溶液中および口腔内における酸処理エナメル質の再石灰化現象を検討し,次のような知見を得た。
1)石灰化溶液浸漬実験:浸漬10日目の酸処理エナメル質の表面は平坦であり,石灰化度も無処理エナメル質とほぼ同程度を示していた。さらに, C a , P の線分析結果, および赤外線吸収スペクトル像も無処理エナメル質と同様の傾向を示していた。また,浸漬2 8 日目のC a , P の結合エネルギー値は, 無処理エナメル質のそれよりもわずかに高エネルギー側に位置していた。しかし,浸漬28日間経過後も酸処理により溶解した約2 0 μ m のエナメル質表層の形態回復は生じていなかった。
2) 口腔内唾液浸漬実験: 保隙装置に取り付けて口腔内に浸漬した酸処理エナメル質の表面は,均一で滑らかであり,その歯固有の無処理エナメル質の表面形態を示していた。しかし,浸漬45日間経過後も石灰化度は,無処理エナメル質よりも低く,酸処理により溶解したエナメル質表層の形態回復も生じなかった。