小児歯科学雑誌
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フッ化モリブデン酸アンモニウムの象牙質に及ぼす影響
楽木 正実
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キーワード: (NH4)2MoO2F4, 象牙質, 齲蝕抑制
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1986 年 24 巻 1 号 p. 114-137

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抄録
フッ化モリブデン酸アンモニウム(NH4)2MoO2F4の齲蝕抑制機序を,象牙質に及ぼす影響の面から検討した。
その結果,(NH4)2MoO2F4は,健全象牙質粉末と反応して,フッ素のみを主体としたフッ化物よりもCaF2を速やかに生成させ,フッ素の取込み量も増加させた。無機質における脱灰と再石灰化を想定し,BrushiteおよびWhitlockite合成系に(NH4)2MoO2F4を添加した実験においては,他のフッ化物と同程度にapatiteを生成させた。
pH6.0およびpH5.5に調整した(NH4)2MoO2F4で処理したコラーゲンはコラゲナーゼによる分解を受けず,(NH4)2MoO2F4は象牙質有機質の溶解を抑制する可能性が推察された。
さらに臨床応用を想定し,(NH4)2MoO2F4を歯面塗布した場合には,象牙質の耐酸性の向上作用は,10%濃度でほぼ上限に達し,この効果は,塗布直後のみならば人工組織液に浸漬後も38%Ag(NH3)2Fと同程度であった。
10%(NH4)2MoO2F4を象牙質に塗布した場合,直後には象牙質表面だけでなく象牙細管内にもおよぶCaF2の生成ならびにフッ素とモリブデンの内層への浸透を認め,8週間経過後には38%Ag(NH3)2Fにはおよばないもののapatiteの成長による象牙細管の封鎖傾向を認めた。
以上の研究結果から,(NH4)2MoO2F4は歯質を着色させることなく,象牙質に対しても抗齲蝕作用を有することが示唆された。
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© 一般社団法人 日本小児歯科学会
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