小児歯科学雑誌
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24 巻, 1 号
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  • 歯面清掃法の違いによるエッチング効果と小窩裂溝清掃法
    金児 晴夫, 今井 康仁, 宮沢 裕夫, 今西 孝博, 赤羽 章司
    1986 年 24 巻 1 号 p. 1-12
    発行日: 1986/03/25
    公開日: 2013/01/18
    ジャーナル フリー
    シーラントは,齲蝕予防体系の一つとして実施されているが,実際の臨床において填塞材の破折,脱落を経験することが少なくない。予後不良となる原因の大半は,歯面・小窩裂溝部の清掃不良と,填塞時の操作ミスにあると考えられる。そこで著者らは,ヒト抜去歯を裂溝清掃用チップと歯面清掃研磨器にて清掃を行い,シーラントの接着に関する諸因子の内の,歯面の清掃状態,小窩裂溝内容物の除去効果,清掃状態の差によるエッチング効果について,SEMにて観察を行った。その結果,次のような知見を得た。
    1.歯面清掃研磨器による歯面清掃では,有機性付着物が除去され,エナメル質小柱末端が露出することが認められた。小窩裂溝内部では,比較的柔軟と思われる付着物は,おおむね除去されていたが,石灰化が進行していると思われる内容物に対しては,必ずしも十分ではなかった。
    2.裂溝清掃用チップによる小窩裂溝内の清掃では,チップがとどいた範囲において内容物は,完全に除去されるばかりでなく,裂溝壁が一層開削されて新鮮エナメル質が露出することが認められた。
    3.シーラント・レプリカ面の観察結果から,エナメル質表面に有機性付着物が残遺していた場合には,十分なエッチング効果は期待できないように思われた。しかし,裂溝清掃用チップを使用した場合には,裂溝壁に対してもすぐれたエッチング効果が得られていた。
  • 幼若大臼歯を対象とした2年後の成績
    遠山 孝之, 高橋 浩次, 石川 雅章, 小野 博志
    1986 年 24 巻 1 号 p. 13-21
    発行日: 1986/03/25
    公開日: 2013/01/18
    ジャーナル フリー
    臼歯用コンポジットレジンの有用性を探るためにクリアフィルポステリアを用いて幼若第1,第2大臼歯計47歯を対象に臨床観察を行った。
    観察期間を2年とし,その間リコール毎に口腔内診査,写真撮影およびレプリカ模型用印象採得を行って,経時的な資料を得た。レプリカ模型は実体顕微鏡およびSEMで観察した。臨床的不快事項の発現と推移を調べたところ,次のような知見が得られた。
    1)辺縁破折は10例(21.3%)に認められた。10例とも窩洞外に過剰充填されていた部位に発現していた。
    2)二次齲蝕は6例(21.8%)に認められた。このうちの4例は予防拡大の不足が原因と考えられ,他に罹患歯質の残留と辺縁破折が原因と考えられるものが各々1例認められた。
    3)冷水痛,打診痛を訴えたものが各々1例認められたが,症状は軽微で双方とも自然消退した。
    4)辺縁破折や,修復時に迷入した気泡が原因で,形成面の一部が露出した症例では,その部位から周囲へと影響が及び,不良な予後を呈した。
    5)着色は,二次齲蝕に由来するものが1例,外来色素の沈着によるものが1例認められた。
    6)臨床的不快事項の原因は,本材料の理工学的性質に由来するというよりは,修復術式の不備にあると考えられた。
  • 立体構築による三次元的解析
    野坂 久美子, 伊藤 雅子, 小野 玲子, 甘利 英一
    1986 年 24 巻 1 号 p. 22-37
    発行日: 1986/03/25
    公開日: 2013/01/18
    ジャーナル フリー
    上顎第二乳臼歯63歯を用い,髄室から歯冠表面までの距離をpersonal computerを用いて三次元的な解析の基に測定し,歯冠外形と髄室との関係を明らかにした。
    資料は歯根の吸収段階でI型(1/2以下),II型(1/2以上),III型(歯冠のみ)に分類した。研究方法は,歯を樹脂包埋し,その表面に2本のマーカーを刻印し,硬組織薄切用ミクロトームを用いて近遠心方向で93μの連続切片を作成し,それを10倍に拡大トレース後,computerにて再構築した。観察部位は,咬合面ならびに歯冠を近遠心,頬舌的に各々中央で切断し,その断面から外側をみた近遠心,頬舌側面観の5図形,さらに中央窩,近・遠心小窩,髄室角における近遠心,頬舌側断の14断面図形である。
    結果:髄室から咬合面までの距離で最小値を示したのは,近心頬側髄室角の2.5~2.6mmであった。髄室から歯冠外周までの距離では,髄室角の切断面観察で,近心頬側髄室角から近心ならびに頬側までの距離が最も小さく2.7mmであった。髄室最大豊隆部から歯冠外周までは,頬舌側面観ならびに中央窩切断面の近心が最も小さく1.9~2.0mmであった。歯頸部で最小距離を示したのは頬側面観の近心で,1.4~1.7mmであった。また,咬頭頂に対する各髄室角は,近遠心的に1mm弱,頬舌的に約1mm,それぞれ内方に位置していた。一方,歯根の吸収段階によって,歯質の厚さが有意に変化する部位は少なかった。従って,窩洞形成時には生理的な二次象牙質の形成を過信することなく,それぞれの部位の歯質の厚さを熟知する必要があると思われた。
  • 長谷川 康広
    1986 年 24 巻 1 号 p. 38-66
    発行日: 1986/03/25
    公開日: 2013/01/18
    ジャーナル フリー
    乳歯根の生理的吸収に伴う歯肉上皮の細胞構造や細胞構築の変化を観察する目的で,3歳より7歳までの小児の上顎乳中切歯部の歯肉52例を乳歯根の吸収程度により4 stageに分類し,超薄切片法を用いて検索し以下の知見を得た。
    1.乳歯根の吸収の進行に伴って基底細胞の基底面の形状は、凹凸が大きくなるのが観察された。これらの変化はhemi-desmosomeおよびanchoring fibrilsの数の増加を伴っていたことから,上皮と固有層の機械的支持を強化した結果と思われた。
    2.基底細胞内のtonofilamentおよびmelanosomeは,乳歯根の吸収の進行により数の増加が観察された。
    3.有棘細胞に観察される細胞質突起は小児では形態が小さく,また歯根吸収が初期の試料の細胞間隙は狭かった。しかし乳歯根の吸収の進行に伴って有棘細胞間隙は拡大し,一部に細胞間接合装置の不明瞭化が観察された。
    4.Odland小体は乳歯根の吸収の進行に伴って数の増加が観察され,とくに吸収の進行した時期の深層の角質細胞内にはOdland小体が残存し,小体内部の層板を角質細胞間隙中に放出する像が観察された。
    5.Keratohyalin顆粒の一部には,dense homogeneous depositsが観察された。
    以上小児の歯肉上皮は乳歯根の生理的吸収の過程において種々の形態学的な変化を示し,乳歯歯根吸収は周囲歯肉組織の微細構造に深く関わりをもつことを知った。
  • 大西 暢子, 竹村 衿子, 荒井 久仁子, 小熊 綾, 川上 康子, 西巻 弘子, 千葉 秀樹, 真柳 秀昭, 神山 紀久男
    1986 年 24 巻 1 号 p. 67-80
    発行日: 1986/03/25
    公開日: 2013/01/18
    ジャーナル フリー
    我々は, 永久歯の小窩裂溝齲蝕予防手段として臨床的に広く応用されているシーラントが1 . 第二乳臼歯に対して有効であるか否か検討するため, 裂溝清掃にG K - 1 0 1 液を併用し臨床成績を追跡するとともに,2.シーラントの填塞の有効性を年齢的要素から検討するため仙台市北地区内保育園児の齲蝕のフィールド調査を行い, 以下の結果を得た。
    1)臨床研究の被検歯は,小児患者66名(平均年齢3歳11カ月)の上下顎第二乳臼歯180歯で,このうち3カ月以上経過した151歯を対象歯とした。観察期間は最短1カ月から最長23カ月,Full retention,脱落症例の平均経過月数は各々12.4カ月と6.9カ月であった。
    2)第二乳臼歯のシーラントの保持率は,Full retention 123歯(81.5%),Partial retention28歯(18.5%)であった。
    3)脱落原因として乳歯の裂溝形態の単純性,酸エッチングの不良等が考えられた。
    4)GK-101液を用いた結果,裂溝内の清掃性の向上と共に保持率を高めることができた。
    5)シーラント辺縁部からの新たな齲蝕の発生はなかった。
    6)齲蝕罹患状況のフィールド調査より第二乳臼歯のシーラント適応時期が明らかになった。適応時期としてはラバーダム防湿処置が可能となる時から,3歳迄とするのが望ましい。
    7)シーラントはあくまでも咬合面小窩裂溝の齲蝕予防を目的としたもので,隣接面齲蝕は予防できないということを忘れてはならない
  • 広瀬 永康, 田村 康夫, 徐 成徳, 篠田 圭司, 吉安 高左郎, 吉田 定宏
    1986 年 24 巻 1 号 p. 81-87
    発行日: 1986/03/25
    公開日: 2013/01/18
    ジャーナル フリー
    小児の咬合力と最大咬合力発現時における咀嚼筋活動について検討するために,本実験を計画した。計測項目としては,咬合力発現時の同側側頭筋および咬筋積分値(IET,IEM),最大咬合力(MBF)および発現時間(MBF Time, MBFT),最大咬合速度(Maximum Bite Speed, MBS),最大咬合速度発現時間(MBS Time, MBST)の計6項目について,これら各項目の再現性について検討した。
    被検者は,乳歯列期小児3名と成人3名を用い,各被検者とも3日間にわたりデータを採取し,日内変動,日間変動および各計測項目の有効性について評価した。その結果,
    1)6項目とも小児と成人で再現性が認められたが,MBFT,MBS,MBSTの3項目については,個人差および日間変動が大きい傾向にあった。
    2)IET,IEM,MBF,MBSについては小児群よりも成人群が有意(p<0.005)に大きい値を示した。
    3)IET,IEM,MBFの3項目については変動も小さく,1回の計測で十分評価できるものと考えられたが,MBS,MBFT,MBSTについては変動がやや大きく,この原因として主にトランスデューサーの咬み難さに問題があると考えられ,今後これらの点を改善する必要があると考えられた。
  • 墨 典夫
    1986 年 24 巻 1 号 p. 88-113
    発行日: 1986/03/25
    公開日: 2013/01/18
    ジャーナル フリー
    齲蝕原性細菌S. mutansの母から子供への伝播に影響を及ぼす菌量についてラット実験系で検討した。また,ラットあるいはマウス口腔内へのS. mutansの定着を接種菌数と接種回数を変化させて検討した。さらにin vitro系でハイドロキシアパタイトへのS. mutansの吸着に及ぼす菌量の影響について検討を加えた。その結果,S. mutansMT 8148 R株(血清型c),6715株(g)ともに母ラットロ腔内に棲息するS. mutans菌数が多いもの程,その子供ラット下顎より早期にしかも菌数も多く供試菌が回収された。しかし,母ラットから子供ラットへの伝播は臼歯が口腔内に萌出した後にのみ認められた。さらに55日齢まで飼育した子供ラットの齲蝕と離乳時の母ラットの齲蝕との間には相関が認められた。
    ラットあるいはマウス口腔内へのS. mutansの定着では,両株とも接種菌数が同じときは10回接種した方が1回接種よりも明確に定着した。また,低接種菌量ではスクロースの影響が著明であった。
    in vitro 系の結果よりS. mutansのアパタイトへの吸着において,6715株はMT 8148 R株に比してスクロースへの依存性が高いことが示された。
    以上の結果は,母ラットロ腔内のS. mutans菌数がその子供へのS. mutansの伝播に影響を及ぼし,また,S. mutansの定着は感染機会の増加あるいはスクロースの存在により促進されることを示唆している。
  • 楽木 正実
    1986 年 24 巻 1 号 p. 114-137
    発行日: 1986/03/25
    公開日: 2013/01/18
    ジャーナル フリー
    フッ化モリブデン酸アンモニウム(NH4)2MoO2F4の齲蝕抑制機序を,象牙質に及ぼす影響の面から検討した。
    その結果,(NH4)2MoO2F4は,健全象牙質粉末と反応して,フッ素のみを主体としたフッ化物よりもCaF2を速やかに生成させ,フッ素の取込み量も増加させた。無機質における脱灰と再石灰化を想定し,BrushiteおよびWhitlockite合成系に(NH4)2MoO2F4を添加した実験においては,他のフッ化物と同程度にapatiteを生成させた。
    pH6.0およびpH5.5に調整した(NH4)2MoO2F4で処理したコラーゲンはコラゲナーゼによる分解を受けず,(NH4)2MoO2F4は象牙質有機質の溶解を抑制する可能性が推察された。
    さらに臨床応用を想定し,(NH4)2MoO2F4を歯面塗布した場合には,象牙質の耐酸性の向上作用は,10%濃度でほぼ上限に達し,この効果は,塗布直後のみならば人工組織液に浸漬後も38%Ag(NH3)2Fと同程度であった。
    10%(NH4)2MoO2F4を象牙質に塗布した場合,直後には象牙質表面だけでなく象牙細管内にもおよぶCaF2の生成ならびにフッ素とモリブデンの内層への浸透を認め,8週間経過後には38%Ag(NH3)2Fにはおよばないもののapatiteの成長による象牙細管の封鎖傾向を認めた。
    以上の研究結果から,(NH4)2MoO2F4は歯質を着色させることなく,象牙質に対しても抗齲蝕作用を有することが示唆された。
  • 尾本 和彦, 向井 美恵, 宍倉 潤子, 庵原 昭一, 金子 芳洋
    1986 年 24 巻 1 号 p. 138-145
    発行日: 1986/03/25
    公開日: 2013/01/18
    ジャーナル フリー
    咀嚼,嚥下等に障害を伴った摂食障害児に対するリハビリテーションを行っていく際に,口腔機能の評価表を確立することはきわめて重要である。
    そこで,今回は口腔機能評価の評価基準を定めるとともに,それを重症心身障害児に応用したところ以下の知見が得られた。
    対象は重症心身障害児120名のうち,摂食時に全介助を必要とし,かつ摂食困難を有する者73名であり,ビデオ画像上で口腔機能評緬を行った。結論:
    1)ビデオ画像上で摂食動作を繰り返し観察できるので評価の客観性,正確度が増したと考えられる。
    2)評価基準は発達的要素を加味してあるため,単に異常の診断ばかりでなく発達的評価,各部位の機能間の関係,訓練効果の判定等きわめて応用範囲が広いと考えられる。
    3)対象児集団の摂食機能の特徴は
    (1)口唇閉鎖機能,舌運動機能,顎運動機能の未発達が著しかった。
    (2)口腔内の食物処理方法は,咀嚼運動機能の未発達が著明で,押しつぶし嚥下が57%と最も多かった。
    (3)口唇閉鎖機能の発達と摂食機能の発達との間にはきわめて密接な関連があると推察された。
    (4)過敏は他の身体部位よりも口腔により多く存在する傾向が認められた。
  • 第4報 筋電図学的解析による摂食機能の発達状況について
    渋井 尚武, 大出 祥幸, 河野 寿一, 杉山 久, 関本 恒夫, 間下 喜一, 斎木 隆, 上原 正美, 菊池 進, 大竹 邦明, 成田 ...
    1986 年 24 巻 1 号 p. 146-153
    発行日: 1986/03/25
    公開日: 2013/01/18
    ジャーナル フリー
    この研究は昭和58年度に東京都の委託を受けて行った心身障害児(者)歯科医療研究の成果の一部である。本研究の筋電図学的解析によると,摂食機能の発達状況については,全身の発達度や摂食機能が良好になればなるほど咀嚼能率が向上し,障害が軽度であれば,咀嚼回数,時間が短縮でき,1回の持続時間(Duration)も減少し,効率良く咀嚼機能が営まれていることが認められた。すなわち,摂食機能の発達および全身の発達と側頭筋,咬筋の筋電図所見との間に強い関連性のあることが判明した。
  • 谷 京子, 楽木 正実, 斉藤 隆裕, 大土 努, 祖父江 鎮雄
    1986 年 24 巻 1 号 p. 154-162
    発行日: 1986/03/25
    公開日: 2013/01/18
    ジャーナル フリー
    10%(NH4)2MoO2F4の,急性及び慢性齲蝕病巣の象牙質に及ぼす影響について検討するために,偏光顕微鏡,顕微X線写真による観察を行い,また,微小焦点X線回折を行った。さらに10%(NH4)2MoO2F4塗布直後の齲蝕象牙質表層を,走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察した。その結果,10%(NH4)2MoO2F4塗布後には,急性及び慢性蝕いずれにおいても,齲蝕病巣表層部にCaF2が生成することが示された。
    また,SEMによる観察においても,CaF2と思われる球状生成物の存在が認められた。
    また,X線マイクロアナライザーによる線分析により,齲蝕象牙質内層へのMo,Fの浸透の程度を調べた結果,Mo及びFが共に同程度に内層へ浸透していることが認められ,急性齲蝕病巣においては,慢性齲蝕病巣の場合より一層深部に浸透していた。これらの諸事実が,本薬剤の齲蝕進行抑制機序の一翼を担っているものと推察された
  • 飯島 英世
    1986 年 24 巻 1 号 p. 163-178
    発行日: 1986/03/25
    公開日: 2013/01/18
    ジャーナル フリー
    下顎運動は顎口腔系機能の具体的な現われの一つであり,下顎の運動範囲は,筋,靭帯,神経,顎関節等の複雑な相互作用によって決められる。そこで,発育途上にある小児が示す顎運動の特徴をつかむ手掛りとして,小児(14名),成人(12名)の下顎切歯部における運動範囲を記録し,前頭而及び矢状面投影図で比較検討したところ以下のことが明らかとなった。
    1.小児と成人では,下顎運動範囲の大きさに差異があるものの,両者とも前頭面投影図は,中心咬合位を頂点とし,最大開口位を最下点とした盾状の形態を示し,また矢状面投影図は,中心咬合位及び前方咬合位から,後下方の最大開口位へ延びる紡錘形に近い形態を示しており,基本的差異はみられない。
    2.小児の方が成人よりも,前頭面及び矢状面投影形態からすれぽ,最大開口量に対する側方及び前方への運動量の割合が小さい。
    3.小児の下顎運動は成人のそれより前方及び側方滑走運動路や後方限界運動路においてより直線的な運動を示す。
  • 中村 純子, 渡部 茂, 小西 慶孝, 石塚 治, 畑 良明, 五十嵐 清治, 梅津 征夫
    1986 年 24 巻 1 号 p. 179-190
    発行日: 1986/03/25
    公開日: 2013/01/18
    ジャーナル フリー
    低出生体重児にみられる歯科的所見,とくに乳歯におよぼす影響としては,周産期の栄養障害,代謝障害,および遷延性新生児黄疸などに起因するエナメル質形成不全,エナメル質減形成,着色歯などが挙げられる。
    今回我々は,臼歯部咬合面の形成異常を主訴として来院した4歳1カ月の女児で,乳歯着色,エナメル質形成不全の他,萌出遅延,および著しい全身の発育不良などの所見を呈した出生時体重2,420gの低出生体重児の症例に対して,歯科的検討を行い,以下の結論を得た。
    1)全身的,局所的診査の結果,暦齢4歳1カ月に対し,成長発育状態,骨年齢,歯牙年齢は2~3歳と遅れていた。
    2)齢着色は〓の歯冠部全部と〓の歯頂側1/3,〓の歯頂側1/2に認めた。
    3)エナメル質減形成は〓と左右対称的に認めた。
    4)歯冠近遠心幅径,歯列弓長径は平均的であったが,歯列弓幅径は平均値より狭少であった。
    5)歯牙着色および形成不全の原因は,重度の新生児黄疸,乳児肝炎によるbilirubinと母親の黄体ホルモンの服用によることが推察された。
  • 小口 春久, 及川 清
    1986 年 24 巻 1 号 p. 191-199
    発行日: 1986/03/25
    公開日: 2013/01/18
    ジャーナル フリー
    Coffin-Lowry症候群は,伴性遺伝型を示すといわれており,極めて稀な疾患である。表現型としては,臨床的に精神および運動発達遅延,筋緊張低下,胸郭・脊椎の異常,特徴的な顔貌などを示すものとして報告されている。
    今回報告する症例は,臨床的にCoffin-Lowry症候群と診断された兄弟例について,表現型としての特徴と特に口腔内所見を明らかにするとともに,小児歯科学的診断および治療を実施して以下のような所見を得た。
    1.兄弟ともに心身の発育障害は著明であり,粗い顔貌,広く突出した前頭部,両眼間開離,逆ダウン症様傾斜の眼,高い頬骨弓,上向きの鼻孔などが認められ,更には本疾患に特徴的な末節骨遠位端の部分は短小,拡張していて,臨床的には明らかな大鼓ばち様変化が認められた。
    2.口腔内所見としては,兄弟ともに小帯の異常,高狭口蓋および舌に深い正中溝が認められた。
    3.兄弟ともに上顎中切歯の正中離開および対称性捻転が認められ,特に兄には多数の先天性欠如歯(_??__??_)が認められた。
  • 有田 憲司, 菊地 賢司, 西野 瑞穂
    1986 年 24 巻 1 号 p. 200-209
    発行日: 1986/03/25
    公開日: 2013/01/18
    ジャーナル フリー
    新生児期に発症するバセドウ病には-過性と遷延性の2つの型がある。そのうち,甲状腺機能亢進症が6カ月以上持続する遷延例は極めてまれである。我々は,その1例について歯科的に観察・分析する機会を得たのでここに報告する。
    症例は3歳7カ月の男児で開咬を主訴として来院した。母親は,患児の妊娠中甲状腺機能亢進が認められ,妊娠4カ月から出産までバセドウ病治療薬の投与を受け,患児は,生後18日目から甲状腺機能亢進症に対する治療を受け,2年6カ月に及ぶ長期治療がなされた。患児に成長障害はなく,頭蓋骨や手根骨の早期化骨,歯の萌出促進も認められなかったが,軽度の精神発達遅滞を認めた。顔面・口腔所見は次のとおりであった。
    1)C|Cは先天性欠如であったが,後継永久歯胚に歯数異常,発育異常はなかった。
    2)C|Cは円錘歯であり,歪ECB|BCEの近遠心幅径は標準値より2SDを越えて小さく,短小化が認められた。
    3)E|E/E|Eにエナメル質減形成が認められ,E|E/EDC|CDEのエナメル質表面に,形成不全を示す一本の溝が認められた。
    4)下顎右側第2乳臼歯の歯根が3根であった。他の乳歯には歯根の形態異常はなく,歯髄腔の狭窄も認めなかった。
    5)ミオパチー顔貌および顔面高の大きい面長の顔貌を呈していた。
    6)特異な口蓋形態が認められた。
    7)エナメル質減形成の認められた|Eのエナメル質は,正常乳臼歯エナメル質に比較して,結晶子の大きさ,格子不整ともに大きかった。
    歯の異常についてはその発現時期から,本疾患との関連性が確かめられたが,甲状腺ホルモン過剰による影響のより大きい全身の成長発育に異常のみられなかったことから,甲状腺ホルモン過剰による直接的影響というより,むしろホルモン分泌異常による全身状態の悪化によって二次的に生じたものと考えられた。
  • 浜田 義彦, 田中 克, 峰 正博, 今井 元次, 大東 道治, 稗田 豊治
    1986 年 24 巻 1 号 p. 210-216
    発行日: 1986/03/25
    公開日: 2013/01/18
    ジャーナル フリー
    歯肉の発赤,腫脹,排膿および歯肉退縮を主訴として大阪歯科大学付属病院小児歯科外来に来院した3歳女児を診査した結果つぎのような所見が得られた。
    1)特記すべき全身的既往歴および家族歴はなかった。
    2)乳前歯部の歯肉は水平的退縮を示し,歯肉ポケットおよび排膿のほか,歯の動揺がみられ,また,エックス線写真像において全乳歯の歯槽骨の水平的吸収が認められた。
    3)歯肉組織の生検では,歯肉上皮層における肥厚と固有層における軽度の円形細胞浸潤と毛細血管の拡張がみられた。
    4)血液所見では,正常桿状球および正常分葉核の極端な減少がみられた。骨髄所見は正常であるが,貧食殺菌能と末梢好中球の減少が認められた。
    5)以上のことから本患児をLazy Leukocyte Syndromeに発現した若年性の歯周症と診断した。
  • 細矢 由美子, 森 剛一, 後藤 譲治
    1986 年 24 巻 1 号 p. 217-226
    発行日: 1986/03/25
    公開日: 2013/01/18
    ジャーナル フリー
    血小板無力症とは,常染色体劣性遺伝形式をとる先天性血小板機能異常症で,出血傾向として最も多くみられるのは皮下出血と鼻出血である。今回我々は,歯肉出血を主訴に来院した血小板無力症の5歳男児の1症例を経験したので報告する。
    患児は5歳4カ月時,下顎右側乳臼歯部歯頸部歯肉より出血し,ボスミンガーゼによる圧迫止血並びに濃縮血小板血漿の輸注によっても止血せず,出血が8日間続いた為来院した。出血部には,歯頸部の適合が極めて不良な既製冠が装着され,同部の歯牙は齲蝕に罹患していた。出血部に装着されていた既製冠を除去したところ,容易に止血が得られた。齲蝕が多く,要抜去歯も存在したので,患児が遠方より来院する事も考慮し,他日小児科に入院し,小児歯科外来で歯髄及び根管処置,歯冠修復及び抜歯を行った。歯科治療は抜歯も含め,トランサミンによるコントロール下で行った。抜歯は局所的処置に重点を置いて行い,血小板の輸注は行わなかった。抜歯部位には定期診査時に,下顎には床型保隙装置を装着したが,上顎では抜歯部の空隙に閉鎖がみられた為,可撤式床矯正装置を装着した。
  • 小出 武, 小林 陽子, 河原 茂, 山路 守, 稗田 豊治
    1986 年 24 巻 1 号 p. 227-235
    発行日: 1986/03/25
    公開日: 2013/01/18
    ジャーナル フリー
    クローバー葉状頭蓋変形症候群は縫合部の早期癒合によってクローバー葉状に頭蓋変形をきたす水頭症で,上顎の劣成長が著明であることから,本疾患児の顔面,顎および歯列弓の形態などの特徴を把握することは歯学的に意義のあることと考えられる。
    本邦では18例目と思われる3歳女児のクローバー葉状頭蓋変形症候群の一例に遭遇し,歯科的検討を加え以下の所見を得た。
    1.頭蓋は前頭部および両側頭部が膨隆し,クローバー葉状を呈していた。X線所見では頭蓋全体に指圧痕が認められ,後部矢状縫合,人字縫合および冠状縫合に早期癒合傾向が認められた。
    2.耳介低位,眼球突出,鞍鼻および四肢の短縮傾向が認められた。
    3.上顎口蓋部に正中裂溝を認め,E|Eの萌出遅延が認められた。
    4.極度の反対咬合を呈し,上下前歯はまったく接触せず,臼歯部は両側性の交叉咬合を呈した。
    5.歯列模型の分析の結果,歯列弓の幅径および長径は上,下顎とも標準値を下まわっており,とくに上顎の乳犬歯前方部での発育不全が著明であった。
    6.側方頭部X線規格写真による角度分析および線分析の結果,強い中顔面部の劣成長がうかがわれ,相対的な下顎前突を呈していた。下顎骨でも骨体部に短縮を認めた。
  • 田村 康夫, 笹井 浩司, 蒲生 健司, 辻 甫, 清水 紀子, 奥田 令以
    1986 年 24 巻 1 号 p. 236-245
    発行日: 1986/03/25
    公開日: 2013/01/18
    ジャーナル フリー
    顔面の血管拡張性紅斑, 皮慮の日光過敏性, 原発性侏儒症, 染色体異常を認める典型的なBloom syndromeの兄妹例について歯科的診査を行った結果,以下の所見を得た。
    1)兄妹は,初診時それぞれ12歳と10歳で,血縁関係(従兄妹)のある両親より出生したものであった。
    2)全身的には,兄は身長および体重とも-3SD~-4SDを,また妹は-1SD~-2SDを示す劣成長児であった。
    3)口腔内所見,模型分析およびパノラマX線写真所見では,兄は下顎両側永久歯の先天欠如が認められ,歯の大きさは上下顎とも-1SD~-3SDの矮小歯傾向を示し,また歯列弓および歯槽基底の長径,幅径とも-2SD~-4SDの劣成長を示していた。しかし妹は下顎第一大臼歯の歯冠幅径と歯列弓長径が-1SDを越えていたのみで他はほぼ標準値内にあった。
    4)歯の形態については兄妹とも特に異常は認められなかった。
    5)セファロ分析所見では,兄妹とも顎顔面の劣成長を認め,特に下顎骨の劣成長が著しかった。
    6)Bloom syndromeの顎顔面および口腔に及ぼす影響は兄に強く出現していた。
  • 1986 年 24 巻 1 号 p. 246-281
    発行日: 1986/03/25
    公開日: 2013/05/14
    ジャーナル フリー
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