新生児期に発症するバセドウ病には-過性と遷延性の2つの型がある。そのうち,甲状腺機能亢進症が6カ月以上持続する遷延例は極めてまれである。我々は,その1例について歯科的に観察・分析する機会を得たのでここに報告する。
症例は3歳7カ月の男児で開咬を主訴として来院した。母親は,患児の妊娠中甲状腺機能亢進が認められ,妊娠4カ月から出産までバセドウ病治療薬の投与を受け,患児は,生後18日目から甲状腺機能亢進症に対する治療を受け,2年6カ月に及ぶ長期治療がなされた。患児に成長障害はなく,頭蓋骨や手根骨の早期化骨,歯の萌出促進も認められなかったが,軽度の精神発達遅滞を認めた。顔面・口腔所見は次のとおりであった。
1)C|Cは先天性欠如であったが,後継永久歯胚に歯数異常,発育異常はなかった。
2)C|Cは円錘歯であり,歪ECB|BCEの近遠心幅径は標準値より2SDを越えて小さく,短小化が認められた。
3)E|E/E|Eにエナメル質減形成が認められ,E|E/EDC|CDEのエナメル質表面に,形成不全を示す一本の溝が認められた。
4)下顎右側第2乳臼歯の歯根が3根であった。他の乳歯には歯根の形態異常はなく,歯髄腔の狭窄も認めなかった。
5)ミオパチー顔貌および顔面高の大きい面長の顔貌を呈していた。
6)特異な口蓋形態が認められた。
7)エナメル質減形成の認められた|Eのエナメル質は,正常乳臼歯エナメル質に比較して,結晶子の大きさ,格子不整ともに大きかった。
歯の異常についてはその発現時期から,本疾患との関連性が確かめられたが,甲状腺ホルモン過剰による影響のより大きい全身の成長発育に異常のみられなかったことから,甲状腺ホルモン過剰による直接的影響というより,むしろホルモン分泌異常による全身状態の悪化によって二次的に生じたものと考えられた。
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