抄録
10%(NH4)2MoO2F4の,急性及び慢性齲蝕病巣の象牙質に及ぼす影響について検討するために,偏光顕微鏡,顕微X線写真による観察を行い,また,微小焦点X線回折を行った。さらに10%(NH4)2MoO2F4塗布直後の齲蝕象牙質表層を,走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察した。その結果,10%(NH4)2MoO2F4塗布後には,急性及び慢性蝕いずれにおいても,齲蝕病巣表層部にCaF2が生成することが示された。
また,SEMによる観察においても,CaF2と思われる球状生成物の存在が認められた。
また,X線マイクロアナライザーによる線分析により,齲蝕象牙質内層へのMo,Fの浸透の程度を調べた結果,Mo及びFが共に同程度に内層へ浸透していることが認められ,急性齲蝕病巣においては,慢性齲蝕病巣の場合より一層深部に浸透していた。これらの諸事実が,本薬剤の齲蝕進行抑制機序の一翼を担っているものと推察された