抄録
乳歯根の生理的吸収に伴う歯肉上皮の細胞構造や細胞構築の変化を観察する目的で,3歳より7歳までの小児の上顎乳中切歯部の歯肉52例を乳歯根の吸収程度により4 stageに分類し,超薄切片法を用いて検索し以下の知見を得た。
1.乳歯根の吸収の進行に伴って基底細胞の基底面の形状は、凹凸が大きくなるのが観察された。これらの変化はhemi-desmosomeおよびanchoring fibrilsの数の増加を伴っていたことから,上皮と固有層の機械的支持を強化した結果と思われた。
2.基底細胞内のtonofilamentおよびmelanosomeは,乳歯根の吸収の進行により数の増加が観察された。
3.有棘細胞に観察される細胞質突起は小児では形態が小さく,また歯根吸収が初期の試料の細胞間隙は狭かった。しかし乳歯根の吸収の進行に伴って有棘細胞間隙は拡大し,一部に細胞間接合装置の不明瞭化が観察された。
4.Odland小体は乳歯根の吸収の進行に伴って数の増加が観察され,とくに吸収の進行した時期の深層の角質細胞内にはOdland小体が残存し,小体内部の層板を角質細胞間隙中に放出する像が観察された。
5.Keratohyalin顆粒の一部には,dense homogeneous depositsが観察された。
以上小児の歯肉上皮は乳歯根の生理的吸収の過程において種々の形態学的な変化を示し,乳歯歯根吸収は周囲歯肉組織の微細構造に深く関わりをもつことを知った。