抄録
上顎第一乳臼歯の抜去歯71歯を用い,髄室から歯冠表面までの距離を測定した。磨耗の程度を除いては,資料の選択条件,分類ならびに研究方法は,既報告の上顎第二乳臼歯に準じて行った。観察部位は,咬合面観,頬舌的に2分した頬・舌側面観,近心面観,また頬・舌側髄室角ならびに中央溝中心部を中心とした切断面である。
結果:髄室から咬合面までの距離は,頬側の髄室角がいずれも舌側より小さく,とくに頬側髄室角が最小で2.5mmであった。髄室から隣接面までの距離は,頬側面観で髄室全体が近心に偏位していた。しかし,舌側面観では髄室最大豊隆部から咬合面寄りの髄室は近心へ,歯頸部寄りでは遠心へ片寄っていた。これらの部位の最小距離は頬側面観近心歯頸部の1.1~1.2mm であり, これは, 歯頸部の全測定部位の中でも最小であった。髄室から頬・舌側までの距離は,III型の一部を除いて,いずれも頬側の方が小さかった。
頬・舌側髄室角ならびに髄室最大豊隆部における歯冠外周までの最小距離は,前者では頬側髄室角から頬側までの約2.3mm,後者では頬・舌側面観近心ならびに近遠心断面近心の約1.5mmであった。
咬頭頂に対する頬・舌側髄室角は,近遠心的にはそれぞれの直下に,頬舌的には0.7~1.0mm内方に位置していた。吸収段階では,I,II型問に距離の増減はあまりみられなかった。従って,窩洞形成では,どの吸収段階でも歯質の厚さに関して,同じような配慮が必要であると考える。