小児歯科学雑誌
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25 巻, 3 号
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  • 1970年に生まれた日本人小児の調査
    今村 基遵, 佐久間 立明, 桑原 未代子, 鍋田 和孝, 河田 典雄, 河合 良明, 會田 栄一, 黒須 一夫
    1987 年 25 巻 3 号 p. 501-511
    発行日: 1987/09/25
    公開日: 2013/01/18
    ジャーナル フリー
    1970年から1975年の間に生まれた日本人小児(64名)の乳歯歯冠近遠心幅径と乳歯列弓の大きさを計測し標準値を求め,さらにターミナルプレーンと乳歯列弓歯間空隙についても観察した。その結果,乳歯歯冠近遠心幅径では,上顎乳犬歯,上顎第一乳臼歯,下顎第二乳臼歯に性差を認め,女児より男児の方が大きかった。乳歯列弓では,多くの計測部位で性差を認め,女児より男児の方が大きかった。乳歯列弓の年齢差は,男児上顎の歯列弓幅が年齢とともに大きくなっていたが,その他では差は認められなかった。ターミナルプレーンは,左右両側垂直型が34.9%,左右両側近心型が22.2%,左右両側遠心型が14.3%であり,他は混合型であった。乳歯列弓歯間空隙は,上顎の空隙型が90.7%,下顎の空隙型が87.5%であった。
    さらに,1950年代に生まれた小児の乳歯歯冠近遠心幅径と乳歯列弓の大きさを計測した小野らの結果と比較検討した。その結果,乳歯歯冠近遠心幅径は,ほとんど変化が認められなかったが,乳歯列弓の大きさは,我々のデータの方が小さく,特に上顎乳歯列の前方部で差が認められた。さらに,ターミナルプレーンは,垂直型が減少し,遠心型が増えていた。このことより,乳歯列期における顎の短小化は,単に永久歯列期の叢生の原因となるばかりでなく,下顎の遠心咬合といった上下顎骨の不調和の原因につながる可能性も考えられた。
  • 上岡 斉, 増島 純子, 三田 明, 佐々木 重夫, 斎藤 高弘, 江藤 万平
    1987 年 25 巻 3 号 p. 512-520
    発行日: 1987/09/25
    公開日: 2013/01/18
    ジャーナル フリー
    東北歯科大学の位置する福島県郡山市内の保育園1 0 施設, 1 歳~6 歳の小児5 0 6 例( 男児2 5 4 例, 女児2 5 2 例) および幼稚園4 施設, 4 歳~6 歳の小児4 0 8 例( 男児2 0 7 例,女児201例)の口腔内診査の機会を得た。そして,それらの齲蝕罹患状況および処置状況を調査して次の結果を得た。
    1)保育園児では1歳から6歳まで,幼稚園児では,4歳から6歳まで,齲蝕罹患状況は増齢的悪化傾向を示した。
    2)どの年齢の齲蝕罹患状況も,保育園児より幼稚園児が悪い傾向を示した。
    3)処置状況も増齢的増加傾向を示したが,保育園児より幼稚園児が良い結果を示した。
    4)歯種別齲蝕罹患歯率は2歳では上顎乳中切歯,3歳以降では各年齢とも下顎第一乳臼歯または第二乳臼歯が最高率を示した。下顎乳切歯は最低率で,4歳以降もそれほど高率を示さなかった。
    5)齲蝕罹患型について,A1型は増齢的変化が少なく,A2型は増齢的に減少し,B型,C型は増齢的に増加する傾向を示した。
  • 木村 光孝, 内野 公一, 佐藤 秀輝, 竹中 正史, 原田 和巳, 粟生 悟
    1987 年 25 巻 3 号 p. 521-530
    発行日: 1987/09/25
    公開日: 2013/01/18
    ジャーナル フリー
    従来から本邦は世界各国のなかでもカルシウム摂取量が最も低い国であるが,その改善法あるいは改善による骨組織に及ぼす影響の程度については未だ報告されていない。そこで著者らは,生後3週齢のラットを用いて,本邦において最も漁獲量が多いイワシをカルシウムの栄養源として利用し,成長期顎骨と大腿骨に及ぼす影響について検討した。
    その結果,X線学的および光学的に実験後7週目までは標準食を与えた対照群の歯槽骨と大腿骨の骨濃度はイワシパウダーの混合食を与えた実験群よりも高い濃度を示したが,実験後8週目からは実験群のほうが高い濃度を示した。写真濃度としては,対照群の歯槽骨と大腿骨の骨濃度は実験群のものよりも速く増加しているものの,実験後8週目からは逆に減少した。実験群の骨濃度は実験日数の経過と共に安定した増加現象がみられ,しかも実験後8週目からは対照群の骨濃度よりも高くなった。
    以上の結果から,成長期歯槽骨と大腿骨の骨組織は,イワシパウダーの摂食によって骨形成の増加効果があることが実証された。
  • 立体構築による三次元的解析
    野坂 久美子, 伊藤 雅子, 小野 玲子, 谷 恵津子, 甘利 英一
    1987 年 25 巻 3 号 p. 531-546
    発行日: 1987/09/25
    公開日: 2013/01/18
    ジャーナル フリー
    上顎第一乳臼歯の抜去歯71歯を用い,髄室から歯冠表面までの距離を測定した。磨耗の程度を除いては,資料の選択条件,分類ならびに研究方法は,既報告の上顎第二乳臼歯に準じて行った。観察部位は,咬合面観,頬舌的に2分した頬・舌側面観,近心面観,また頬・舌側髄室角ならびに中央溝中心部を中心とした切断面である。
    結果:髄室から咬合面までの距離は,頬側の髄室角がいずれも舌側より小さく,とくに頬側髄室角が最小で2.5mmであった。髄室から隣接面までの距離は,頬側面観で髄室全体が近心に偏位していた。しかし,舌側面観では髄室最大豊隆部から咬合面寄りの髄室は近心へ,歯頸部寄りでは遠心へ片寄っていた。これらの部位の最小距離は頬側面観近心歯頸部の1.1~1.2mm であり, これは, 歯頸部の全測定部位の中でも最小であった。髄室から頬・舌側までの距離は,III型の一部を除いて,いずれも頬側の方が小さかった。
    頬・舌側髄室角ならびに髄室最大豊隆部における歯冠外周までの最小距離は,前者では頬側髄室角から頬側までの約2.3mm,後者では頬・舌側面観近心ならびに近遠心断面近心の約1.5mmであった。
    咬頭頂に対する頬・舌側髄室角は,近遠心的にはそれぞれの直下に,頬舌的には0.7~1.0mm内方に位置していた。吸収段階では,I,II型問に距離の増減はあまりみられなかった。従って,窩洞形成では,どの吸収段階でも歯質の厚さに関して,同じような配慮が必要であると考える。
  • 異なる免疫方法による齲蝕抑制効果の比較
    森崎 市治郎, 加藤 一生, 石田 良介, 祖父江 鎮雄
    1987 年 25 巻 3 号 p. 547-553
    発行日: 1987/09/25
    公開日: 2013/01/18
    ジャーナル フリー
    S.mutans抗原で,ラットを(i)胃内に注入する(経口免疫),(ii)静脈あるいは(iii)働顎下腺近傍の皮下に注射する方法で免疫した。ラットにS.mutans6715を感染させ,齲蝕誘発性飼料を与えて飼育し,免疫による齲蝕抑制効果と抗体反応を比較した。
    非免疫・感染対照群に比べて,免疫ラットの齲蝕は抑制されていた。顎下腺部に免疫したラットで齲蝕抑制効果が最も大きく,次いで静注免疫群,経口免疫群の順になった。
    血清および唾液中の抗S.mutans抗体価は,皮下と静注免疫群で,IgG抗体が著しく上昇していた。免疫群の抗S.mutans IgA抗体は,非免疫群に比して血清,唾液のいずれでも増加していた。
    S.mutans抗原の免疫によって,ラットの齲蝕は抑制されることが示された。その効果は経口免疫よりも非経口免疫の方が大きく,また抗原特異的な抗体反応と関連していた。
  • 山口 和史
    1987 年 25 巻 3 号 p. 554-581
    発行日: 1987/09/25
    公開日: 2013/01/18
    ジャーナル フリー
    Tooth tapping時の小児咀嚼筋筋活動と咬合音持続時間について分析し,咬合異常あるいは機能回復のための機能的検査法としての可能性の有無について検討する目的で本研究を行った。
    まず健全乳歯列群小児15名,混合歯列群小児13名,永久歯列群成人15名での3群間の比較検討を行い,さらに乳歯列期小児5名に実験的咬合干渉を付与した時の筋活動と咬合音持続時間に及ぼす影響について検討を行った。臨床的には乳歯齲蝕治療の終末処置としての既製乳歯冠装着前後での変化について乳歯列期小児4名を対象に比較検討を行った。
    その結果,3群間の比較ではDPTCは乳歯列群が最も長く,DOTCとTotal burstdurationは混合歯列群が最も長かった。APTCは側頭筋で乳歯列群が永久歯列群より有意に大きかったが,咬筋では差は認めなかった。AOTCとTotal burst activityは各筋で混合歯列群が大きな値を示していた。咬合音持続時間は乳歯列群が最も短く,混合歯列群が最も長かった。咬合干渉による影響では,干渉直後にDPTCは干渉側の側頭筋,咬筋で延長する傾向を認め,DOTCは全ての筋群で延長する傾向にあった。Total burstdurationは干渉側で延長する傾向を認めた。積分値では一定の傾向を認めなかった。咬合音持続時間は干渉後3日目に短縮する傾向を認めた。既製乳歯冠装着後では,Total burstdurationが健全乳歯列群の値に近いものとなった。咬合音持続時間は3名で延長する傾向を認めた。
    以上のことより,tooth tapping時の咀嚼筋筋活動および咬合音持続時間を検討することは,小児の咬合状態の機能的検査法の一手段として臨床応用の可能性のあることが示唆された。
  • 第2報:脳性麻痺児の口腔内所見-歯の萌出,歯列・咬合について-
    鈴木 康生, 本間 まゆみ, 山下 登, 井上 美津子, 向井 美恵, 佐々 竜二, 金子 芳洋, 宍倉 潤子, 金子 兵庫, 鈴木 康之
    1987 年 25 巻 3 号 p. 582-607
    発行日: 1987/09/25
    公開日: 2013/01/18
    ジャーナル フリー
    心身障害児とくに脳性麻痺児の口腔領域の諸問題を総合的に把握する目的から,3施設(肢体不自由児および重症心身障害児施設)の243名について調査した。今回は第2報として,口腔内診査,X線診査から歯の発育,萌出状態ならびに歯列・咬合状態について分析し,あわせて口腔機能障害度との関連についても検討した。
    1)歯の萌出状況は,乳歯では第2乳臼歯の遅れが,また永久歯では切歯よりも第一大臼歯,小臼歯の遅れを認めた。
    2)萌出と口腔機能障害度との関連では,乳歯列期で萌出歯数が標準より少ない者はいずれも障害を有する者であった。永久歯では,障害が重度の者ほど歯数が少ない傾向にあり,これは乳歯残存状態とも関連して永久歯交換が適切に行われていないことが明らかとなった。
    3)X線による観察では混合歯列期以降,歯年齢が高くなるにしたがい,歯の埋伏,転位といった位置異常の出現頻度が増す傾向にあった。
    4)歯列・咬合状態では,乳歯列期ですでに30%の小児に開咬を主とした咬合の異常を認めた。混合歯列期以降では, 開咬, 上顎前突, 歯列狭窄などが20~50 % の出現率を示した。口腔機能障害度との関連では乳歯列期では障害の重度の者に,また混合歯列期以降とくに永久歯列期では障害の程度とは関係なく出現率が増す傾向にあった。
  • 藤原 卓, 武井 勉, 泉谷 明, 大嶋 隆, 祖父江 鎮雄
    1987 年 25 巻 3 号 p. 608-613
    発行日: 1987/09/25
    公開日: 2013/01/18
    ジャーナル フリー
    パノース,マルトース,イソマルトースなどを主要構成糖とするグルコシルオリゴ糖(GOS)の齲蝕誘発能,および抗齲蝕作用をラット実験齲蝕系で調べた。SPFのSD系ラットにStreptococcus mutans6715株を感染させ,齲蝕誘発飼料2000中のスクロースの一部もしくは全部を供試糖に置き換えた飼料を与えて飼育した。その結果供試した GOSはスクロースの1/5程度の弱い齲蝕誘発能を示した。またスクロースと等量混合した場合には,スクロースの誘発する齲蝕を明確に抑制した。以上の結果はGOSが抗齲蝕作用を有する新しい代用糖としての可能性が高いことを示唆していた。
  • 笹井 浩司, 田村 康夫, 吉安 高左郎, 篠田 圭司, 宮田 友晴, 伊藤 裕一郎, 市橋 正昭, 岡本 義正, 吉田 定宏
    1987 年 25 巻 3 号 p. 614-617
    発行日: 1987/09/25
    公開日: 2013/01/18
    ジャーナル フリー
    小児期は成長,発育段階にあり,成人に比べ一般的に運動能力の点で劣っているといわれている。しかし,顎運動に関して小児を被検者とした場合,中でもタッピング運動は低年齢児にも比較的容易に行うことができるとされているため,小児歯科の分野でも広く用いられる。今回筆者らは乳歯列期小児から成人まで40名の被検者を4グループに分け,メトロノームによる音刺激を与え,その咬合音を検討することにより,刺激に対してどれだけ正確にタッピング運動が対応できるか,成長,発育の観点から検討する目的で本実験を行った。その結果,乳歯列期小児においてはそのタッピングの正確性および安定性に関して,最も不安定であったが,増齢に伴い運動能力の獲得が進むにつれ,各々の向上が認められた。
  • 第1報 上原の分類I, IIおよびIII群について
    山本 弘敏, 小口 春久, 加藤 尚之, 佐藤 美樹, 及川 清
    1987 年 25 巻 3 号 p. 618-626
    発行日: 1987/09/25
    公開日: 2013/01/18
    ジャーナル フリー
    昭和54年4月から昭和60年10月までの6年7ヵ月の間に本学歯学部小児歯科外来および特殊歯科治療部障害児部門を受診した心身障害児を対象とし,歯科疾患についてその罹患状況を調査した。
    対象としては来院した心身障害児671名の内,上原の分類に従って,I群,II群およびIII群に相当する3 8 2 名( 男2 5 7 名, 女1 2 5 名) について検討した。
    初診時の年齢は5~9歳にピークを示し,全体の62.3%をしめていた。初診時の平均年齢は, 7.4 歳であった。初診時の齲蝕未処置歯率については, 3~7 歳にピークを示したが,著明ではないが,年齢が増すにつれて減少する傾向がみられた。歯科的処置内容では,修復処置が最も多く全体の37.4%をしめていた。続いて予防処置,抜歯処置,歯髄処置,歯内療法となっていた。年度別の齲蝕処置歯率については,年々増加の傾向を示していた。
    リコール時の齲蝕発症については,全身麻酔下において治療を実施した場合,再処置歯率,新生齲蝕歯率とも最も高い値を示し,特殊診療科障害児部門の外来において治療を実施した場合には,最も低い値を示した。
  • 主として歯科的所見を中心として
    山本 弘敏, 船越 禧征, 紅露 政利, 稗田 豊治
    1987 年 25 巻 3 号 p. 627-634
    発行日: 1987/09/25
    公開日: 2013/01/18
    ジャーナル フリー
    Hallermann-Streiff症候群は先天性白内障と鳥貌を特徴とする先天奇形である。歯科的異常所見も数多くみられ,鳥貌を初めとし,先天性歯,部分性無歯症,歯の形成不全などが主なものである。
    今回,私たちはHallermann-Streiff症候群と診断された7歳10ヵ月の男児について,特に歯科的所見を中心に報告する。
    1)頭部X線規格写真の分析結果から,上顎骨,下顎骨双方の前方および下方への発育不全が認められた。
    2)咬合状態は切端咬合で,口蓋は尖頭型口蓋で上下歯列弓ともV字型に狭窄していた。
    3)萌出歯は全て倭小歯であった。また乳歯の晩期残存が認められた。
    4)デンタル型エックス線写真から上顎正中部に埋伏過剰歯が存在した。またパントモ型エックス線写真から部分性無歯症も認められた。
    5)歯列弓長径,幅径とも平均値よりも低値を示した。
  • 第1報: 嚢胞腔内の位置異常歯の萌出誘導について
    片尾 秀信, 小川 公子, 奥村 喜与子, 斉藤 武公, 森谷 泰之, 稗田 豊治, 黒住 俊明, 白数 力也
    1987 年 25 巻 3 号 p. 635-643
    発行日: 1987/09/25
    公開日: 2013/01/18
    ジャーナル フリー
    含歯性嚢胞の治療は,主に原因歯の抜去とともに嚢胞全摘出および嚢胞開窓術が行われている。私たちは,今日まで嚢胞開窓術による関連埋伏歯の萌出誘導を数多く経験しているが,今回は,とくに嚢胞が大きく,嚢胞の圧迫によって関連埋伏歯の位置異常の著しい3症例について開窓術と保隙装置による萌出誘導を行い,良好な結果を得たので報告する。
    1)年少者の広汎性の含歯性嚢胞において開窓術が有効であった。
    2)開窓部の閉鎖を防止するために嚢胞壁と歯肉粘膜とを縫合すると好結果が得られた。
    3)圧迫偏位した関連埋伏歯は,開窓後ただちに萌出する傾向が認められた。
    4)開窓前には,著しい歯軸の傾斜が認められる関連埋伏歯も,開窓後,矯正力を加えなくてもその歯は正常な歯軸に戻る傾向が認められた。
    5)すでに萌出している隣接歯の傾斜防止と,関連埋伏歯の萌出に必要なスペースの確保が必要で,そのためには開窓術に加え,保隙装置の併用が必要と考えられた。
    以上,若年者の含歯性嚢胞には開窓術と保隙装置を併用することによって,歯の牽引等の矯正力を加えなくても,関連埋伏歯の正常な位置への誘導が可能であると考えられ,たとえ,含歯性嚢胞に関連する埋伏歯の位置異常が著しくても,安易な抜歯は避けるべきと考えられる。
  • 谷 京子, 楽木 正実, 大土 努, 祖父江 鎮雄
    1987 年 25 巻 3 号 p. 644-649
    発行日: 1987/09/25
    公開日: 2013/01/18
    ジャーナル フリー
    ラットを用いた動物実験により,フッ化モリブデン酸アンモニウム溶液の齲蝕進行抑制効果が報告されている。ヒトの齲蝕に対するフッ化モリブデン酸アンモニウム溶液の局所塗布の効果を, 10名(14症例)の小児を対象として調べ, 以下の結果を得た。
    1)齲蝕病巣の程度,擦過痛の有無,齲蝕病巣の硬さについてチェアーサイドで判定した結果, フッ化モリブデン酸アンモニウム溶液の塗布により, 蒸留水塗布に比べてC1, C2程度の齲蝕の進行が抑制される傾向が認められた。
    2)スライド写真により齲蝕病巣の表面の面積の経時的変化を測定した結果, フッ化モリブデン酸アンモニウムの齲蝕進行抑制作用が,実質欠損を伴わないC0の齲蝕でも,実質欠損を伴うC1, C2の齲蝕でも, 統計的に有意に認められた。
    以上の結果より, フッ化モリブデン酸アンモニウムは歯質を着色しない齲蝕進行抑制剤として,臨床応用が可能であると考えられた。
  • 高野 文夫, 宇津木 双葉, 国本 洋志, 大森 郁朗
    1987 年 25 巻 3 号 p. 650-659
    発行日: 1987/09/25
    公開日: 2013/01/18
    ジャーナル フリー
    家庭内で虐待を受け,永久歯の広範性齲蝕を生じた9歳9ヵ月の女児の歯科治療を行い,義歯を装着した。小児虐待症では,その背景の把握,診療室における対応,口腔衛生管理の指導など,通常とは異なった配慮が必要である。
    歯科治療に当たっては,患児の萎縮した心を開かせ,家族の協力を引出し,失われた咀機能を早期に回復することに努めた。義歯の作製に際しては,発育途上の小児の適切な咬合高径を決定するため,同一歯齢群および同一暦年齢群の標準値を参考にして,頭部X線規格写真による角度分析を行うとともに,顔面各部の比率を求めた。
    義歯装着後,患児は次第に閉鎖した態度を解き,術者の話しかけにも応ずるようになり,患児に虐待を加えていた母親の態度にも改善がみられた。小児虐待は,小児を取り巻く社会問題のひとつとして,小児科医や小児歯科医が遭遇する可能性のある問題である。わが国においては,まだ大きく問題にされることは少ないが,欧米においてみられる実態を考えると,わが国においても臨床的問題となる可能性が認められる。
  • 久芳 陽一, 本川 渉, 一木 數由, 吉田 穣
    1987 年 25 巻 3 号 p. 660-670
    発行日: 1987/09/25
    公開日: 2013/01/18
    ジャーナル フリー
    我々は,下顎左側第2乳臼歯が完全に埋伏している3歳7ヵ月の男児の症例を経験し,これに咬合誘導処置を施した.
    本症例のX線写真所見では下顎左側第2乳臼歯の埋伏とその歯冠部を取り囲む境界明瞭なX線透過像が認められたが,その後継永久歯であるべき下顎左側第2小臼歯の歯胚は欠損していた. なお全身的及び歯科的に下顎左側第2 乳臼歯の埋伏に関連すると思われる既往は認められず埋伏の原因は判然としなかった.
    処置として,当該部歯肉を開窓し,ダイレクトボンディングシステムにより患歯にフックを装着した.これと上顎に装着した舌側弧線の固定歯上顎左側第2乳臼歯の頬面に装着したフック間にパワーチェーンを用いて埋伏下顎左側第2乳臼歯の牽引誘導を行い,咬合平面に向け患歯を誘導した.
  • 1987 年 25 巻 3 号 p. 674-763
    発行日: 1987/09/25
    公開日: 2013/01/18
    ジャーナル フリー
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