抄録
本研究は筋電図の不規則波形を高速フーリエ変換(Fast Fourier Transform:FFT)し,周波数成分とそのパワーを同時に解析することにより乳歯列期から混合歯列期を経て永久歯列期まで,歯列の成長変化により咀嚼筋筋電図における筋活動量がいかに変化するかを検討する目的で,被検者を歯列の成長により乳歯列期,混合歯列期前期,混合歯列期後期,永久歯列期の4群に分類し,総計140名についてタッピング,クレンチング,バイティングの各被検動作を行わせた。筋電図は側頭筋前腹及び咬筋より採取し,そのスペクトル波形について,周波数域,ピーク周波数,ピーク強度を計測し,比較検討を行った結果は以下のとおりである。
1)周波数域については各群とも側頭筋のほうが咬筋に比べより広い周波数域を示し,また歯列の成長にともないその値は減少していた。
2)ピーク周波数およびピーク強度についてクレンチングがもっとも大きく,続いてタッピング,パイティングの順であった。
3)オートパワースペクトル波形を側頭筋,咬筋でその強度レベルを比較し,側頭筋が高い値を示した場合は側頭筋優位型,咬筋が高い値を示した場合には咬筋優位型とした場合,タッピング時,クレンチング時,最大咬合力発現時とも,咬筋優位型を示した者が歯列の成長変化にともない増加していた。
4)クロススペクトル波形の比較ではすべての被検運動について各群とも基本波に対して広い範囲で側頭筋および咬筋の調和が見られ,高周波数域まで高い強度が持続することが示され,さらに歯列の成長とともに強度が次第に増大することが認められた。