抄録
エナメル質の齲蝕感受性は,萌出直後で一番高く,以後増齢的に低下し,これが萌出後成熟によるものであることは広く知られている.しかし,そのメカニズムが解明されているわけではない.そこでそのメカニズムを解明する一手掛かりとして,成熟過程(再石灰化過程)において軽度の脱灰が繰り返し組み込まれた場合どのような影響を与えるかを合成のカーボネート含有水酸化アパタイト粉末とヒトエナメル質を用いて検討を行った.
その結果,粉末実験においては,再石灰化の過程にごく軽度の脱灰を頻回に組み込むことにより,サイズの減少を少なく抑えることができ,かつ結晶性を向上させることが認められた.また,ヒトエナメル質の実験においては,1回当たり30秒という短時間の脱灰を再石灰化過程に繰り返し組み込んだ部分において,実質欠損等を起こすことなく,結晶性の向上とそれにともなう耐酸性の向上が認められた.
以上のことよりエナメル質の成熟過程にごく軽度の脱灰が繰り返し組み込まれることにより,エナメル質表層での結晶性が向上し,それにともない耐酸性も向上する.つまりエナメル質の無機相における萌出後成熟(post-eruptive maturation)に大きく関与していることが示唆された.