小児歯科学雑誌
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フッ素によるラット形成不全エナメル質の結晶性について
若松 紀子岡本 圭一真部 滋記生野 伸一藤居 明範小泉 龍矢飯沼 光生辻 甫棚瀬 精三吉田 定宏
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1990 年 28 巻 2 号 p. 449-458

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抄録

慢性的なフッ素中毒として現れる,ヒト形成不全歯のエナメル質においては,有機質成分が残留し,小柱内ならびに小柱間のアパタイトの結晶密度が小さく,すう粗になっていることが報告されている.また,エナメルタンパクのうちアメロゲニンには,アパタイト結晶の成長を抑制する作用があり,歯質の成熟に伴って分解されていくに従い,その能力も小さくなることが示されており,アメロゲニンの低分子化の阻害が,斑状歯の成因に関与していることが考えられる.そこで,本実験においては,ラットに長期間NaFを含む水を与え,形成された石灰化不全エナメル質の結晶性を微小焦点X線回折によって評価した.さらに,成熟期のアメロゲニンを抽出し,電気泳動によって分子量の変化を調べた.その結果,100ならびに200ppmF-投与群のエナメル質に,著明なX線透過性の石灰化不全部が観察された.そして,その部分の結晶性は,a軸,c軸方向ともに0ppmF-群に比べて低く,その傾向はa軸において著しくみられた.また,電気泳動からは,100ならびに200ppmF-群は0ppmF-群に比べて, 高分子量タンパク質の残留ないし低分子化の遅滞が起こっていることが明らかになった.
以上の結果から,斑状歯エナメル質においては,高分子量アメロゲニンの低分子化が妨げられ, そのためにアパタイト結晶の成長が抑制され, 結晶性の低下が起ることが示唆された.

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© 一般社団法人 日本小児歯科学会
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