抄録
思春期前期に発症した顎関節症2症例に対し,生理的な顎口腔系の成長発達および心理的特性を考慮して,咬合育成の面から検討を行った.症例1は,10歳0ヵ月の女児で,開口障害を主訴に来院した.発症原因は〓〓交叉咬交合による咬合的要因が主因と考えられたが,顎関節症を発症しやすいと報告されている心理的要因も有していた.クローズドロックの認められた症例であった.側方歯の生理的な萌出を抑制することなく,咬合挙上による顎関節部の安静,および〓〓の頬側傾斜移動を行う目的で〓〓部補助弾線付スプリントを装着した.約2週間後症状は軽減し,約2ヵ月後,〓〓交叉咬合が改善し,左右側小臼歯部に咬合接触が認められるようになり,スプリント非装着時においても症状の消失が認められた.症例2は8歳2ヵ月の男児で,右側顎関節部の違和感および最大開口時の右側顎関節雑音および疼痛を主訴として来院した.発症原因は心理的要因が強く,〓〓既製乳歯冠装着により咬頭嵌合位が定まらず不安定になったことが誘因で発症したと考えられる.症状が軽度で,乳歯冠にはすでに咬耗傾向がみられたため,簡易精神療法のみで経過観察を行った.約5ヵ月後症状は消失し,13歳5ヵ月時まで再発は認められていない.思春期前期は顎口腔系の形態的,機能的変動が著しく,心理的にも情動的不安定が生じやすい時期である.このような思春期前期に発症した顎関節症に対しては,積極的な咬合治療の適否の判定さえ困難である.本2症例の検討から,思春期前期の顎関節症に対しては,決して永久歯列の顎関節症に対する治療法の移行ではなく,成長発達期であることを充分に考慮したアプローチが必要不可欠であることが示唆された.