抄録
肝移植の手術後に免疫抑制剤Cyclospolin A(CsA)の投与をうけている患児の歯肉増殖を経験し,臨床的ならびに組織学的に検索した.患児は3歳3ヵ月,女児で,CsAの投与量は180mg/d,投与期間は28カ月である.口腔内所見として上下顎にわたり歯肉の増殖が認められ,増殖歯肉の色調はピンク色で,硬く弾力性があった.歯肉の発赤や出血はなかった.増殖した歯肉のポケットの深さは約1-4mm程度であったが排膿や出血はなかった.歯に着色がみられた.エックス線写真から歯槽骨には骨破壊や骨吸収などはみられなかった.増殖した歯肉の病理組織学的所見は表面は重層扁平上皮で被覆され,上皮下には一部に過錯角化,有棘層肥厚および上皮突起の延長がみられた.また,上皮下の深部に密なコラーゲン線維束の増生を認めた.本疾患児に対する口腔管理として重要なことは齲蝕歯および歯肉増殖部からの感染を防止することである.歯肉増殖はCyclospolin A投与患児すべてに発生するわけでないこと,歯牙の存在しない部位には発生しないことからプラークが増殖因子として密接に関与しているものと考えられる.そのため,プラークコントロールに主眼をおいた歯口清掃,ならびに歯性感染の原因となる齲蝕の早期発見,早期治療に努めることが最も大切である.