小児歯科学雑誌
Online ISSN : 2186-5078
Print ISSN : 0583-1199
ISSN-L : 0583-1199
心因性障害に起因した小児の習慣性頬粘膜咬傷の難治症例
南 一惠森崎 市治郎
著者情報
ジャーナル フリー

1995 年 33 巻 5 号 p. 1124-1130

詳細
抄録

男子小学生(初診時8歳10か月)が,左右後臼歯頬粘膜の穿孔,疼痛を主訴として来院した.現病歴は,約2か月前萌出中の第一大臼歯で,左後臼歯部頬粘膜を咬んで潰瘍をつくり,その後習慣的に下顎を左右に動かすようになった.両側に穿孔性の潰瘍ができ,疼痛と感染のため栄養不良状態が続き,1か月以上の入院となるが完治には至らず,退院後も疼痛を訴え,鎮痛薬常用の状態で当部に紹介された.
上顎に咬合挙上板を装着して,潰瘍は軽快し食欲も回復して,一旦は平常どおりの生活にもどった.しかし装置をはずすと,舌尖,舌縁,下口唇とつぎつぎと咬傷,潰瘍をつくり,救急来院を繰り返した.右側頬粘膜を咬んで感染し,発熱・右顔面腫脹・脱水症状を来たして,抗生物質と栄養剤の点滴静注と,即日マウスガードの装着によって入院を免れたこともあった.
本症例に知的障害や不随意運動はないが,歯の交換に伴う問題として発生した咬傷が,習慣性の自傷的行為として固定化し,全身症状にまで波及することとなったと推察される.症状を繰り返しながらも10か月余りの通院で症状が消失したため,この自傷的行為の背景にあると考えられる情緒・心因性障害については,本人,家族およびわれわれにとっても未解決のままである.また歯の交換期の頬粘膜咬傷に,咬合挙上板やマウスガードを応用するときには,顎骨の成長や歯の交換を妨げないよう注意すべきことが示唆された.

著者関連情報
© 一般社団法人 日本小児歯科学会
前の記事 次の記事
feedback
Top