抄録
先天性心疾患児に抜歯を行う際の合併症として感染性心内膜炎がある.本症に罹患しやすい先天性心疾患は心室中隔欠損,動脈管開存症,ファロー四徴症および大動脈縮窄症で,後天性弁膜疾患では僧帽弁膜症,大動脈弁膜症などがある.また,ファロー四徴症や大動脈縮窄症,肺動脈閉鎖症,三尖弁閉鎖症などのように右→ 左シャントが存在する先天性心疾患では,菌血症が生じた場合,細菌が肺で除かれず,直接脳に達し脳膿瘍を合併する場合がある.今回,単心室,大動脈縮窄,僧帽弁狭窄,心房中隔欠損症を有する9歳7か月女児で抜歯を契機として脳膿瘍を併発したと考えられ,脳外科でドレナージの緊急手術,抗菌薬投与により治療し得た症例について報告した.本症例は先天性心疾患に加え,何らかの免疫機能の低下があり,抜歯を契機として口腔内の病巣から病原菌が右→ 左シャントを経由して脳内へ波及して脳膿瘍が生じたものと推測される.このことから,特にチアノーゼ性心疾患を有している患児においては口腔内病変が直接的に病巣感染をひきおこす可能性もあるので,観血的処置に際しては抗菌薬の予防投与などを行い,処置後も注意深い観察が必要である.