抄録
大きい顎骨を有する近交系マウスとしてRF/J(20匹),小さい顎骨を有する近交系マウスとしてSM/J(22匹),同様に大きい顎骨のC57L/J(10匹)と小さい顎骨のA/HeJ(13匹)を親系とし,大きい顎骨を有する雌と小さい顎骨を有する雄を交配して得たものをF1[RFIJ♀ ×SM/J♂](7匹)とF1[C57L/J♀ ×A/HeJ♂](22匹),また小さい顎骨を有する雌と大きい顎骨を有する雄を交配して得たものをF1'[SM/J♀×RF/J♂](11匹)とした.
以上の2系列の顎骨を下顎下縁平面をX軸(水平方向),それに直交する線分をY軸(垂直方向)とし,基準点間の線分計測を行った.さらに,過去に報告した1系列の結果も合わせて検討したところ,3系列すべてにおいて各F1のオトガイ部より関節頭のX成分およびオトガイ部より下顎角部のX成分は大きい顎骨を有する親系の同部位と同様あるいはそれ以上であった.このことからマウスの下顎骨においてオトガイ部から関節頭への水平成分とオトガイ部から下顎角部への水平成分は遺伝形式が優性をとることがほぼ確証でき,特に水平成分が主であるオトガイ部から下顎角部への水平成分の大きさの違いが下顎骨水平方向の形態形成に関与する遺伝子の解明にあたっての表現型となり得ることが示された.