抄録
小児歯科では,小児患者,術者,母親の三者の人間関係で主に歯科治療が行われる。小児の治療には母親が付き添って来ることが多く,母親の協力が得られないと行うことができない。しかし,歯科診療室に母親が入室した際,術者は何らかの心理的ストレスを受けると考えられる。一般的に,ストレッサーに対して影響を強く受ける人もいれば,ほとんど影響を受けない人もいる。反応の仕方や程度には個人差があり,人々の解釈や反応が違うように,ストレスに対する感受性もそれぞれ異なっている。そこで,小児歯科診療時における術者の心理的ストレスとその対処行動(コーピング)に焦点を当て,どのような関連性をもっているかについて検討を行い,以下の結果を得た。
1.心理的ストレス得点は,対処行動の全体量と頻度で関連性が認められたが,強度とは関連性が認められなかった。
2.問題中心型では,対処行動の頻度において,高ストレス群と低ストレス群との間で有意差が認められた。情動中心型では,対処行動の全体量や頻度において,両群間に有意差が認められた。
3.対処行動の6タイプからの検討では,全体量において,気持ちを何かで紛らわす型で高ストレス群と低ストレス群との間で有意差が認められた。頻度については,気持ちを何かで紛らわす型,じっとしている型の2タイプにおいて両群間に有意差が認められた。強度では,全てのタイプにおいて有意差が認められなかった。
以上のことより,母親から受ける術者の心理的ストレス得点とそのストレスに対する対処行動には関連性があり,心理的ストレスが増せば対処行動の機会も増すことが示された。