抄録
唾液クリアランスは口腔の各部位で異なっており,唾液腺管開口部に近い部位では優れていることが示されている.Lecomte(1987), Watanabe(1992)らは,上顎頬側部の唾液クリアランスは被験者によってかなりの変動があることを報告しているが,耳下腺管開口部の位置と唾液クリアランスの関係を調べることは意義のあることと思われる.
本研究では,成長に伴い耳下腺管開口部の位置がどのように変化するのかを調べ,唾液クリアランスとの関係を考察した.耳下腺管開口部は乳歯列期(8名),混合歯列期(8名),永久歯列期(8名)での各被験者(総数24名)より印象採得を行い,石膏模型を作製して評価した.その結果,乳歯列期の耳下腺管開口部は,基準とした上顎第二乳臼歯遠心面より近心に位置していた.一方混合歯列期では,上顎第一大臼歯遠心面よりも近心側に位置していた.永久歯列期では,基準とした上顎第一大臼歯のほぼ遠心面に位置していた.結果として,耳下腺管開口部の位置は,年齢と共に後方に変化していくことが示された.このことは,耳下腺唾液は口腔に分泌されると前方(近心)に流れるという報告から考えると,その部位の唾液クリアランスが良好に維持されるためには都合の良いことと思われた.