小児歯科学雑誌
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実験的外傷がラットエナメル質形成過程におよぼす影響
血清アルブミンの歯胚組織への滲出
谷川 良謙若松 紀子尾辻 渉棚瀬 精三
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1997 年 35 巻 5 号 p. 936-945

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抄録

著者らは,外傷による乳歯根尖部ならびに歯胚周囲組織での小出血が,いかにエナメル質の形成障害を引き起こすかのメカニズムを知ることを目的に,一定条件で発現率の高いエナメル形成障害を引き起こす外傷方法を検討してきた.その結果,4日齢ラットの下顎外部より,3Nの力量で,エナメル芽細胞の基質形成期と石灰化期の移行部で打撲を行う外傷法が,形成障害の発現率はもっとも高く,ほぼ均質な低石灰化エナメル質を引き起こすことができた.さらに,細束X線回折法,TEM観察により,形成障害部エナメル質の結晶成長の抑制がうかがえた.
そこで,本実験では,この外傷法を用いて,外傷から生じる局所的出血より組織内に滲出する血清アルブミンがエナメル質形成過程におよほす影響を考慮し,アルブミンの歯胚・組織への滲出を検討するために免疫組織化学的方法,ならびに125I-albuminのオートラジオグラムによる方法で,その局在性を検討した結果,以下の結論を得た.
1.受傷直後に,受傷部位に相当して,エナメル芽細胞とエナメル基質との間に空胞化を示すものから,エナメル芽細胞そのものに障害を認めた.
2.免疫組織化学法,および125I-albuminのオートラジオグラフィーにより,受傷による局所的出血から滲出したアルブミンは,受傷から30分以内に,エナメル芽細胞内,分離し空胞化の見られたエナメル芽細胞遠心端,および隣接するエナメル基質,特に,トームス突起に対応する部位にアルブミンの局在が認められた.
3.アルブミンの滲出経路は,エナメル芽細胞の断裂破壊部から直接,アルブミンが滲出する他,エナメル芽細胞の空胞化のみを示す場合においては,中間層細胞,およびエナメル芽細胞の細胞間隙からの滲出の可能性が考えられた.
4.受傷1週間後も,石灰化開始したエナメル質内に吸収されずに残留していた.
以上,外傷にともなう局所の小出血,これに関与する血清アルブミンはエナメル基質に滲出,残留することによってエナメル質の石灰化障害に少なからずかかわっていることが示唆された.

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© 一般社団法人 日本小児歯科学会
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