抄録
長距離輸送される大気汚染物質の植物への影響評価のため、屋久島のヤクタネゴヨウと霧島のアカマツの針葉への陰イオンの乾性沈着量および針葉からの陽イオン溶脱量の測定を行った。両者とも当年葉に比較して1年葉は、乾性沈着物の蓄積が認められた。ヤクタネゴヨウの乾性沈着量は、アカマツの1.7~4.6 倍大きかった。ヤクタネゴヨウからはF-が検出され、中国で高濃度検出されていることと後方流跡線解析の結果から、中国大陸起源と推察された。一方溶脱量は、いずれもK + に加え、Ca 2+ とMg 2+ の溶脱も確認され、葉面劣化による植物葉内からの溶脱と考えられた。乾性沈着量と溶脱量には、ヤクタネゴヨウでr=0.71~0.96(p<0.01)という高い相関が見られた。アカマツでは各イオンの当年葉と1 年葉には有意差があったが、乾性沈着量と溶脱量の間は、明瞭な相関は認められなかった。以上の結果、針葉からの溶脱量の増大は、ヤクタネゴヨウは乾性沈着が主な要因と示唆されたが、アカマツは乾性沈着以外のストレスも主な要因と推察された。今後、これらの樹種を含む森林生態系への光化学オキシダントと乾性沈着物の複合影響を検討する必要がある。